セレッソ大阪の元日本代表MF香川真司(33)が古巣復帰後、リーグ戦初先発で初ゴールを挙げた。
開幕4戦目でこれがC大阪の今季初勝利。自らの活躍で小菊昭雄監督(47)に白星を贈った。師弟の絆がある2人にとっては、特別な1日となった。
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香川は試合後、小菊監督と言葉をかわしていた。その内容を聞かれると「それは、監督との間のことなんで」と明かさなかった。
高校2年だった06年1月、香川はC大阪とプロ契約を結んだ。才能を見いだしてくれたのが、当時スカウトだった小菊監督。
21歳でドルトムントに移籍した10年も、スペイン2部サラゴサに移籍したが、けがで満足なプレーができなかった19~21年も、いつも相談に乗り、支えてくれたのが、C大阪でコーチや強化部スタッフを歴任していた小菊監督だった。
シントトロイデン所属だった昨年4月、オフで一時帰国した際、香川は小菊監督を頼りにC大阪の練習に特別参加した。その時、2人の食事の席で、小菊監督から「名監督とは?」という問いかけをされた。
当時の同監督は前年8月にコーチから昇格し、まだ8カ月。プロ選手の経験のない異例の指揮官は、選手との接し方に試行錯誤する毎日だった。
香川が挙げた具体例は、ドルトムント時代のユルゲン・クロップ監督や、マンチェスターU時代のアレックス・ファーガソン監督だった。
「(名監督に)共通して言えるのは、厳しさ、怖さ、冷酷さがある中で、温かさ、優しさがあります。いろんな意味で、懐の深さがあります。選手が一番必要とするタイミングで、監督が必要な言葉で話しかけてくれるんです」
そんな香川の言葉に、小菊監督は「(真司は)僕にも、何かを伝えたいという思いがあったのかもしれない」と、当時の取材で心境を明かしている。
2人が信頼関係を築いて17年以上がたち、今季から初めて選手と監督の立場になった。
今回のJリーグ復帰に際し、香川は「小菊さんとは、選手と監督で、それ以上(の関係で)はない」と断言し、小菊監督も同様の言葉を残した。個人的な感情は持ち込まない、という意思表示だった。
ただ2人の根底に流れるものは、師弟という言葉だけで片付けられない信頼関係がある。欧州から12年半ぶりにC大阪に復帰した決定打は、小菊監督がC大阪を率いていたからだ。
この日、香川の活躍で小菊セレッソが今季初勝利を挙げたのも、1つのドラマだった。
試合後の会見で小菊監督は、香川の得点場面を聞かれ、「昨年の強みだった前からのプレスでボールを奪い、全員で決めたゴール」と強調した。チームへの配慮を欠かさない人柄が出たコメントだった。
C大阪は今季、カップ戦を含めたタイトル獲得に全力を挙げる。その中で香川と小菊監督が、どう挑んでいくか。大河ドラマのような物語は、まだまだ続いていく。【横田和幸】