[ 2014年2月17日9時41分

 紙面から ]ソチ市長が73年に植樹したオオムラサキツツジ(撮影・柴田寛人)

 日本人選手のメダル獲得が続き、注目度は増すばかりのソチ五輪。開催地のロシア・ソチ市は約40年前、静岡県熱海市に姉妹都市提携を持ちかけていた。バロンコフ市長(当時)が1973年(昭48)に熱海市を訪れ、中心街にオオムラサキツツジを記念植樹。提携は実現しなかったが、ツツジは今も熱海に残っている。地元でもあまり知られていないソチとの“遠縁”を取材した。

 高さ約170センチ、横幅2メートルほどに広がったツツジ。「ロシア(旧ソビエト連邦)ソチ市長

 来熱記念植樹」とのプレートがあるが、遊歩道の陰に隠れているため、存在に気付く人は少ない。市内在住の76歳男性は「毎朝散歩しているけど、知らなかった。立派なツツジですね」と感心した様子。近隣の旅館経営者(65)は「お客様との雑談でも、話題になることはなかった。五輪期間中だけど、PR材料にするのは難しそう」と、関心が薄かった。

 熱海市とソチ市は、ともに海に近い保養地であることから、1960年代に交流が始まった。73年5月、日ソ親善協会(当時)の招きでソチ市のバロンコフ市長が来日。姉妹都市提携を持ちかけ、オオムラサキツツジを寄贈した。「お宮緑地」と呼ばれる沿岸の緑地帯に記念植樹した。しかし東西冷戦下で、ソ連が社会主義国家だったこともあり、熱海市側が難色を示し、提携は実現しなかった。

 その後は両市の児童が絵画を交換するなどの交流が続いたが、85年以降は関係が途切れてしまった。2007年7月にソチ五輪の開催が決定。ツツジを知る市民から「PRに使えるのでは」という提言があり、ツツジの注目度が一部で上がった。お宮緑地の再整備に伴い、昨年10月、ツツジは約600メートル離れた親水公園南端に移植された。

 ソチ五輪1年前の昨年2月、熱海市ホームページの「広報取材日記」でツツジを紹介。「熱海の歴史を重ねながら五輪を観戦することも、1つの楽しみでは」と訴えた。五輪開幕後は、日本人が獲得したメダルの色と数を示した表示板と、ツツジを一緒に写した画像を掲載。ソチ市とのつながりをPRしている。

 ソチ五輪をきっかけに、両市が姉妹都市提携を考え直す可能性はないという。熱海市役所広報情報室の富岡久和室長(44)は「熱海市は既に、大分県別府市と海外の3都市と姉妹都市提携をしている。新たにソチ市と提携すれば、定期的に交流するための費用が増えてしまう」と説明した。

 ソチ五輪閉幕後は、ツツジが開花する春に取材日記を更新するなど、地道なPR活動を続ける。「熱海市のホームページは英語で翻訳される。ロシア人の方に熱海のツツジを知ってもらって、富士山を観光したついでに寄ってほしい」と富岡室長。熱海市とソチ市の交流を示す象徴として、長く語り継がれることになりそうだ。【柴田寛人】

 ◆熱海市

 静岡県の東端で神奈川県と接する市。古くからの湯治の地で、海から熱い湯が湧き出ていたことが名称の由来。1937年(昭12)に熱海町と多賀村が合併し、市制施行。50年に国際観光文化都市に指定される。57年に網代町を合併。明治時代の尾崎紅葉の小説「金色夜叉」にちなむ「お宮の松」が、観光スポットとして有名。総面積は61・61平方キロ。先月末現在の人口は3万8914人。斉藤栄市長。姉妹都市は大分県別府市、イタリア・サンレモ市、ポルトガル・カスカイス市、中国広東省珠海(しゅかい)市。