[ 2014年2月13日9時17分

 紙面から ]女子ノーマルヒルで4位に終わった高梨は、寂しげに1人引き揚げる(撮影・井上学)

 <ソチ五輪:ジャンプ>◇11日◇女子ノーマルヒル(HS106メートル、K点95メートル)

 やっぱり五輪には魔物が潜んでいるのか。ノルディックスキーの新種目ジャンプ女子で、金メダル最有力候補として臨んだ高梨沙羅(17=クラレ)が表彰台を逃した。2回とも本来のジャンプにはほど遠く後半の伸びを欠いて100メートル、98・5メートルの合計243・0点で4位にとどまった。今季のW杯で13戦10勝、1度も表彰台を逃さなかった女王は夢の舞台で、重圧からか歯車が狂っていた。

 初代女王が決まった瞬間、高梨は勝者に拍手を送り祝福したあと、顔を手で覆って立ち尽くした。ライバルとしてしのぎを削ったヘンドリクソン(米国)が真っ先に駆け寄ってきた。旧知の田中温子(カナダ)には「頑張ったよ」と言われ抱きしめられた。7位の伊藤とは「また一緒に来よう」とともに涙にくれた。

 高梨らしさが影を潜めた。1回目に100メートルを飛び3位。最後の望みをつなぐ2回目も力強く飛び出す、いつものジャンプからはほど遠く、前に突っ込み失速した。足を前後に開いて着地するテレマークも2回とも入れられなかった。表彰台を逃したのは昨年2月のW杯札幌大会(5位)以来。「一番(力を)出さなければいけないときに出せなかった。力不足を痛感した」と表情をこわばらせた。

 「自分では平常心を保っていたつもりだった。思い通りに飛べなかったのはメンタルの弱さだと思う」。ソチで歯車が狂った。4日未明に現地入りし、8日からジャンプ練習を行ったが、助走路が滑らかなジャンプ台に苦戦した。その夜、「お父さんに会いたい」と不安いっぱいになった。現地入りしていた父寛也さん(46)に電話し、涙ながらに「自分のジャンプができない」と訴えた。寛也さんは「あんな沙羅を見たのは初めてだった」と言う。重圧は想像以上だった。

 ソチ入り後、山田コーチには「勝ちたい」と、珍しく何度も漏らすようになった。試合前日、3度目の公式練習後には「一番いい練習が出来た」と言いながら、スキーの金具を触り続けるなどどこか落ち着きがなかった。小さなミスが気になる。山田コーチに「少しのミスは許そう。あっという間に五輪は終わっちゃう」と諭されたが、不安をぬぐいきれなかった。

 「もっと自分の納得のいくジャンプができれば楽しかったのかな」と、楽しみにしていた五輪は苦いものとなった。しかし、「自分の準備不足だと思うし、まだまだ練習が足りなかった」と、強い追い風を受けたことなど言い訳がましいことは口にしなかった。「もっともっと強くなりたい。今回の悔しさをバネにしていいところをみせたい」と4年後の平昌(ピョンチャン)五輪での雪辱を誓った。五輪での借りは五輪で返す。新たな目標に向けて再スタートした。【松末守司】