男子フリースタイルBグループ70キロ級準決勝で、64年東京五輪(オリンピック)柔道男子重量級金メダルの猪熊功氏(享年63)の孫、猪熊昌(しょう、19=慶大)が3位入賞した。

 競技歴わずか1年のホープは、得意のタックルで攻め続け、終盤には意地で3点を奪ったがテクニカルフォール負けを喫した。「攻撃が1パターンでタックルだけで終わってしまった。相手を倒してからポイントを取る攻撃動作を覚えないといけない。本当に悔しい。まだまだです」と、大粒の汗をぬぐって落胆の表情を浮かべた。Bグループは大学から競技を始めた3選手で争った。

 東京・攻玉社(こうぎょくしゃ)中、高では剣道部に所属。練習を休むことが多く、レギュラーにはなれなかった。「部活を本気で打ち込んでなかった。何もかもが中途半端だった」。慶大を目指した大学受験の時、心境の変化が表れた。「このままでは終われない。大学に入学したら体育会に入って、本気で部活に取り組みたい。自分を鍛え直したい」と奮起。一般入試で慶大に入学し、剣道以外で初心者が多い部活を探してレスリングに決めた。

 祖父の功氏は負けず嫌いの性格で、人気柔道漫画「YAWARA」の猪熊滋悟郎のモデルとしても知られ、“ケンカ柔道”の異名を取るほど闘志むき出しの攻めが持ち味だった。一方、昌は高校まで柔道やレスリングなどの格闘技を一切好まなかった。「絵描きや映画鑑賞が趣味で、攻撃的な性格でもない。レスリングは不向きかと思っていたけど始めてみると『鍛えるのも悪くない。好きだな』と思った。猪熊家の血というか、もしかしたら運命なのかもしれない」と本能が芽生えたことを明かした。

 身長178センチ、体重71キロの細マッチョでレスリング選手としては細いのが悩み。しかし、この1年間のトレーニングで体重62キロから9キロ増まで成功した。今後は79キロ級に出場するために80キロまで増量する計画だ。

 レスリングは大学4年で引退する意向で、20年東京五輪にはボランティアでの参加を目指している。「五輪には柔道かレスリング、または通訳として関わりたい。出場は無理だけど、おじいちゃんが金メダルを獲得した特別な五輪を体験して、しっかりと目に焼き付けたい」。異色レスラーの挑戦は続く。