初出場の村元哉中(かな=27)高橋大輔(34=ともに関大KFSC)組が、演技5時間前の負傷を乗り越えた。67・83点で5組中2位発進。午前の公式練習中に2人で転倒し、村元が左膝を負傷していた中で首位と3・91点差につけた。10年バンクーバーオリンピック(五輪)男子銅メダルの高橋が転向。18年ピョンチャン(平昌)五輪15位の村元と今季カップルを結成した。11月のNHK杯に続く競技会2戦目。22年北京五輪に向けて、また関門を突破した。

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男子シングルで5度の優勝を誇る高橋が、アイスダンサーとして全日本に帰ってきた。村元と手を取り、足を合わせ、息、心、動きを重ねる。黄シャツに黒のパンツとサスペンダーで片足ターン多回転のツイズルをそろえ、村元を持ち上げるローテーションリフトも成功。ともに最高評価のレベル4を獲得し、演技が終わると、目を潤ませながら万感の表情で抱き合った。

全日本復帰の高橋に、感慨はなかった。むしろ5時間前には青ざめていた。午前11時前からの公式練習。フィンステップの確認中に2人の足が当たり、高橋の臀部(でんぶ)が村元の左膝に乗る形で転んだ。「自分の全体重が哉中ちゃんに乗っちゃって…。やばい。生きた心地がしなかった」と高橋。倒れ込む村元を見ることしかできなかった。

村元も「初めての感覚で立てなくて。力が入らなかった」。高橋の肩を借りてリンク外へ。医師が触診。靱帯(じんたい)が切れていないことだけは分かり、アイシングで応急処置。負傷の5時間後、演技直前の5分間練習で出場可否を最終的に判断すると決めた。

幸い腫れは小さい。痛み止めを飲んだ村元は左膝に巻いていたテーピングを外し、氷に乗った。「左脚に体重を乗せてみても大丈夫だった」。アドレナリンも出た。出場を決めると、痛めた左膝が軸のスピンも曲げ伸ばす表現も避けずに演じ切った。恐怖がよぎるはずのフィンステップも同調させ、気付けば2分49秒後に涙目で抱き合っていた。

今年1月のカップル結成以来、第一人者の村元に高橋が引っ張られる構図だった。それが「初めて演技前に『頑張ろう』と言ってくれた。全力で頼った。男らしかった」と村元が感謝すれば、高橋は「めちゃくちゃ痛いはずなのに…哉中ちゃんの方が男前。かっけえな」と感動。絆を深め、デビュー戦となった11月のNHK杯の64・15点から3・68点、上積みしてみせた。

試合後は2人で爆笑できるまで安心したが、痛みは翌日に出やすい。27日のフリーへ、村元が「明日どうなるかだけど、せっかくの全日本なので滑れる状況にしたい」と意欲を示すと、高橋は「全力で準備したい」と添えた。夢の北京五輪へ多々ある壁の1枚を越えた日になった。【木下淳】