<ヤクルト9-0阪神>◇15日◇神宮

 新たな歴史の扉が開いた。ヤクルトのウラディミール・バレンティン外野手(29)が、シーズン56本塁打のプロ野球新記録を樹立した。阪神20回戦の1回1死二塁で榎田から左中間席に56号。3回の第2打席でも左翼ポール際に57号を放ち、記録を更新。来日3年目。1964年に王貞治(巨人)が「55」に初めて到達してから、49年ぶりに「聖域」と呼ばれた記録を塗り替えた。

 ついに、歴史が動いた。バレンティンが聖域を超えた。1回1死二塁、相手は阪神榎田。2ボール1ストライクからの直球を振り抜いた。「どの球種を打ったのか分からない」ぐらい興奮していたが、手に残る感触で新記録を確信した。バットを放り投げ、両手を広げた。打球は一直線で左中間へ。大きくバンザイをしながら、56号を見届けた。

 花束を受け取り、仲間の1人1人と抱き合った。「チョーキモチイイ!」。日本プロ野球界で誰も味わったことのない喜びが、体中を貫いた。「神宮で、スワローズファンが見守る中で歴史を作れて本当にうれしい」と笑顔で言った。

 12歳の時、リトルリーグで初めて「ホームラン」の快感を味わった。それから17年後の今まで、何百、ひょっとすれば何千という本塁打を放ってきた。「何本打ったかは分からないよ」と苦笑いしつつも、変わらない信念がある。「勝利につながること。打って喜ばせたいんだ」。

 生まれ故郷キュラソー島で始まった本塁打物語の「第1号」は、左翼への満塁弾だった。母アストリットさん(64)は帰りの車中でも大喜びしていた。バレンティンが本塁打を打ちたい原点が、そこにある。この日、母はバックネット裏で、息子のアーチに再び跳び上がって喜んだ。ヤクルトファンも、阪神ファンも、バレンティンの偉業に歓喜し、拍手でたたえた。「今まで打ってきた中で、自分の最高の打席、感覚だった。大好きなお母さんの前で打ててうれしい」と、思い切り目尻を下げた。

 打てる予感はあった。台風が接近し、試合を行えるか不安視されていた。だが、実際は晴れ間が広がった。中止になれば、本拠地での試合は24日までお預けだった。「今日やれるのはお告げ?」と聞かれ「アイ・ホープ・ソー」とニヤリ。右から左と絶好の風に揺られる旗を見て「パーフェクト」とつぶやいた。今日決める。新しい歴史の扉に手を掛けて4試合目で決めると、心に誓っていた。

 重圧から解放されると、もう止まらない。2打席目には「56号を打ってすっきりした気持ちで打席に入れた」と、2打席連続となる57号を放った。あと何本打てるのか。「何本って目標はない。今まで通り勝利のためにと念頭に置いて、1打席1打席、最後の打席だと思って積み重ねていく。そうすれば、おのずと数字は出てくると思う」。まだまだ、新しい歴史のページをめくっていく。【浜本卓也】