<世界陸上>◇16日◇女子100メートル1次予選◇ベルリン五輪スタジアム

 【ベルリン=佐々木一郎】女子100メートルで日本記録保持者の福島千里(21=北海道ハイテクAC)が、世界選手権の同種目で日本勢初の1次予選突破を果たした。1次予選2組に登場。11秒52の4着だったが、タイムで救われた。五輪を含めた世界大会で最初のラウンドを突破したのは、1932年のロサンゼルス五輪の渡辺すみ子以来77年ぶりの快挙。2次予選は11秒43で2組7着で敗退し、力及ばなかったが、初のステージで貴重な経験を得た。

 福島の挑戦は2次予選で終わった。準決勝進出がかかったレースはスタートの反応こそ際だったが、中盤からライバルたちの追走にのまれた。1次予選突破の快挙の先には、また壁が立ちはだかっていた。それでも「1次予選通過して、2次予選を走ることができて、今の自分の力は出せたと思う」と悔いはなかった。

 1次予選の内容は不満だった。得意のスタートでリードを奪えない。反応タイムは7人中4番目。伸びやかな走りは見られず、11秒52で4着。自動的に1次予選を突破できる3着に入れなかった。「スタートが駄目で、すべてに引きずってしまった」と振り返った。

 だが、望みは捨てなかった。4着以下のタイム上位5人は、2次予選に進むことができる。福島の記録は4着以下のトップタイム。歴史的快挙になった。世界選手権では同種目初の1次予選突破。五輪でも1928年アムステルダム大会で人見絹枝、32年ロサンゼルス大会で渡辺すみ子が予選を通過し、準決勝に進んで以来のことだった。

 外国人との体格差、パワー差もあり、標準記録を切って出場することすら難しかった女子短距離。そのカベを福島は壊し、その先を見ている。今大会、指導を受ける北海道ハイテクの中村監督が同行していないことも、挑戦の1つだ。

 中村監督

 (男子の)高平が1人で海外に行って、吸収しているように自分で考えてやらせたい大会。私が行かないことで成長できる。大会後も海外のGPに1人で行かせたい。そうしないと世界と戦えない。

 昨年の北京五輪は女子100メートルに日本勢として56年ぶりに出た。56年前は、スターティングブロックもなく、穴を掘って足を固定していた時代。当時の写真を見た福島は「へえ~。私なら穴を掘らずにカベを作ります。めっちゃ、固めて…」と笑った。「ベルリンスペシャル」と名付け、ドイツ国旗のネールを施した21歳に固定観念はない。歴史はこれから、つくられる。