<テニス:全豪オープン>◇6日目◇21日◇オーストラリア、メルボルン・ナショナルテニスセンター◇男女シングルス3回戦ほか

 世界の“エア・ケイ”が、またも日本男子の歴史を塗り替えた。世界26位の錦織圭(22=フリー)が、同39位のジュリアン・ベネトー(30=フランス)に4-6、7-6、7-6、6-3の3時間25分で勝ち4回戦に進出。日本男子で全豪で3勝を挙げたのは、32年佐藤次郎以来史上2人目、80年ぶりの快挙となった。4回戦では、4大大会自身初のベスト8進出をかけ、同6位のジョーウィルフリード・ツォンガ(26)と対戦する。

 手の内を探り、攻め、守り、重圧を耐え、錦織がついに歴史の扉を開けた。「何回か負けるかなと考えた。その接戦を勝てたのはうれしい」。ベネトーのボレーがネットにかかると、何度もガッツポーズ。喜びを爆発させた。

 世紀を超えた1勝だった。80年前の全豪はドロー数32。佐藤次郎はベスト4だったが、勝利数は錦織と同じ3勝。プロツアーが確立し、本戦128人の出場になった現在とは、同じ3勝でも重みは桁外れに違う。「1試合1試合ベストを尽くすことだけ考えていた」。日本男子では歴代最高の選手の誕生といえる。

 セットオールで迎えた第3セット。錦織は自分のサービスゲームを2度落とし、2-5と絶体絶命のピンチに追い込まれた。しかし、まだ錦織の闘志は生きていた。「普段ならあきらめていたかも。とにかく1ポイントずつ返していこうと思った」。5オールまで追いつき、タイブレークにもつれ込むと、最後はベネトーがダブルフォールト。この時点で勝負はあった。

 2回戦はフルセットでの大逆転勝ち。この日も3時間25分のタフマッチを勝ち上がった。それでも、課題だった体力はまったく問題ない。冬のオフは、米シカゴでの筋トレからスタートさせた。陸上ハンマー投げの室伏広治を指導する理学療法士のもとで、体幹を中心に鍛え、10日間ほどラケットも握らず体づくりに集中した。

 今年のツアーからは、小型体重計を持参。体重、体脂肪率、脈拍まで毎日計測し、契約先のウイダーにデータを送り、徹底的な肉体管理を行っている。「体は疲れていない。何の問題もない」。たくましく生まれ変わった肉体が、今大会の快挙を支えている原因のひとつでもある。

 錦織にとって、4大大会の4回戦は、08年全米に続いて2度目。自己最高成績タイだ。しかし、3年半前とは気持ちもテニスも大きく違う。「08年は夢みたいだった。今は当然と思うし、もっと上を見ている」。4回戦のツォンガには、昨年10月の上海で勝った。今大会前の非公式戦でも勝ち、現在“2勝”0敗。「エア・ケイ」の歴史は、まだほんの序盤だ。【吉松忠弘】