<柔道:全日本選手権>◇29日◇東京・日本武道館

 重量級が惨敗した。ロンドン五輪男子100キロ超級の選考を兼ねた日本一を決める大会で、鈴木桂治(31)上川大樹(22)高橋和彦(27)の代表候補3人が、ことごとく沈んだ。最後は90キロ級の加藤博剛(26)に、重量級以外では40年ぶりの優勝をさらわれる始末。さらに鈴木が右肩を負傷するなど暗雲が漂う中、残る全日本選抜体重別(5月12、13日、福岡)で、苦しい決着をつける形となった。

 これ以上ない、皮肉な結末だった。五輪代表候補の3人は、無残に敗れた。代わりに頂点に立った加藤は、40年ぶりの重量級以外の選手。低迷を象徴する結果に全柔連の上村会長は「重量級は重症だ」と嘆き、吉村強化委員長は「痛いどころじゃない。どうしようもない」とまくしたてた。男子の篠原監督は「もうちょっと、しっかりした試合をしろよ。選考の重圧があったとしても、五輪はもっとプレッシャーがかかる。ガッカリです」と激怒した。

 3人とも8強には残った。だが、上川は百瀬に不用意な技を掛けては何度も抑え込まれる寸前に陥り、旗判定で敗れた瞬間、天を仰ぎ「ふがいない」。唇は、震えていた。高橋は石井に完璧な大外刈りを食らった。「完敗。相手をたたえるしかない」と気力なく脱帽。ここで2人が散った。

 鈴木は準々決勝で100キロ級の羽賀に苦戦の末、2-1の判定で辛うじて勝ち上がった。だが、準決勝の石井戦は開始17秒で内股を受け、右肩から落ちた。真っ赤に腫れた肩は垂れ下がり、何もできなかった。関係者に「すみません」と謝るのが精いっぱい。過去五輪年の全日本覇者は全員五輪に出場してきた“慣例”が、崩れた瞬間だった。篠原監督は「桂治はケガだというが、投げられなかったらケガをしなかった」とかばわなかった。

 北京五輪以降、ポイントによる世界ランキング制が導入された。その資格がなければ、たとえ全日本の優勝者でも五輪代表に選ぶことができない。恐れていた“弊害”が、表れた。例年の五輪年と異なり、今年は全日本選手権が100キロ超級最後の選考会ではない。だが「ここで3人の誰かが優勝していれば、全日本の重みで位置付けできたが…」と同監督。その機会は失われた。

 残るは選抜体重別のみ。鈴木が右肩鎖関節脱臼の重傷を負ったが、吉村強化委員長は「選考会に出なければ終わり」と言った。篠原監督は「(たとえ優勝できなくても)3人から選ぶしかない」。全日本柔道を支え、五輪で7個の金メダルを獲得してきた重量級が、崩壊の危機に立った。【今村健人】