<柔道:世界選手権>◇第1日◇25日◇ロシア・チェリャビンスク

 世界初挑戦の19歳が、16年リオデジャネイロ五輪へ飛び出した。48キロ級の近藤亜美(三井住友海上)が初出場で金メダルを獲得。昨年覇者のムンフバット(24=モンゴル)に3回戦で優勢勝ちし、決勝では08年北京五輪銅のパウラ・パレト(28=アルゼンチン)を下した。愛知の名門・大石道場で育った「雑草」が、日本伝統の最軽量級で優勝。前回金メダル0だった女子チームに勢いをつけた。

 近藤の攻めの気持ちは、最後まで衰えなかった。北京五輪銅メダルの実力者パレトを払い腰、足技と攻め続けた。たまらず消極的になったパレトが指導をとられ、その差で優勝。目指す「一本勝ち」はならなかったが、畳の上で軽く手をたたいて初優勝を喜んだ。

 3回戦で世界女王に優勢勝ちして、勢いに乗った。準々決勝、準決勝と一本勝ちし、そのまま決勝も押し切った。谷亮子、福見友子、浅見八瑠奈と続く48キロ級の女王になり「最後まで、楽しんですごくいい試合ができた」と笑顔で言った。昨年金メダル0に終わった女子チームに勢いをつけて「しっかり(第2日以降に)つなげられたので、先輩が頑張ってくれると思う」と胸を張った。

 昨年11月のグランドスラム東京を高校生で制し、一躍「リオの星」となった。三井住友海上入り直後、4月の体重別で初優勝し、世界選手権代表に選ばれた。しかし、その後不調に陥った。強豪ぞろいの先輩は乱取りでも投げることができず、投げられ続けて感覚もにぶった。6月の国際大会は何もできず3位。帰国時には「世界代表なんて、胸を張れない」と落ち込んだ。

 しかし「雑草」は、たくましかった。小6の時にケガをした左肘は今でも真っすぐ伸びない。愛知・大成中では部員3人になったこともあった。19歳ながら逆境には慣れている。「雑草なんで。ずぶとくいきたい。開き直れば、なんとかなると」。7月のスペイン合宿では男子の大野に組み手を教わり開眼。「収穫、てんこ盛りです!」と笑顔をみせていた。

 昨年末、1枚の年賀状を書いた。宛先は吉田秀彦、谷本歩実ら五輪金メダリストを輩出した大石道場の大石康師範(71)。おじいちゃんと慕う恩師に誓った。「大石道場の7大会連続の五輪出場を、私で途切れないように頑張ります」と。2年後、リオでの金メダルに向けて、19歳は力強く世界舞台に飛び出した。

 ◆近藤亜美(こんどう・あみ)1995年(平7)5月9日、愛知県生まれ。名古屋市内の六郷道場で5歳から競技を始める。大成中で10年全国中学生大会制覇。大成高では13年高校総体優勝。シニア大会2戦目で初の国際大会だった昨年11月のグランドスラム東京で優勝。4月の選抜体重別を勝ち、代表に選ばれた。得意技は内股。右組み。155センチ、48キロ。

 ◆柔道女子の10代世界女王

 84年に山口香が19歳で優勝して以来、近藤が4人目。93年に田村(現姓谷)亮子が高校生の18歳で金メダルを獲得したのが最年少で、近藤はそれに次ぐ若さになる。田村の五輪金メダルは00年シドニー大会で25歳。五輪の日本女子柔道最年少金メダリストは04年アテネ大会78キロ超級の塚田真希で22歳、近藤がリオで金メダルを獲得すれば、年少記録を更新する。