ヤクルトにとって結果次第で、天国か地獄というような試合だった。優勝が目前に迫りながら、負ければ一気に阪神に王手がかかる状況。前日23日は大敗し、さらにこの日の昼間に阪神が勝利。ナイターで迎える一戦は重圧がかかる。「冷静に」と言うのは簡単だが、いかに状況を整理してプレーできるかがカギだった。

初回1死から先発原が連続四球と嫌な流れだったが、捕手の中村悠平が冷静に切り抜けた。迎えた岡本和に対し、原の武器とするシュートで内角を突き、空振り三振。3回2死二塁で再び岡本和を迎え、フルカウントからインスラ(内角スライダー)を選択した。第1打席の食い込むシュートが頭に残る相手からすれば、この打席で投げていなかったシュートをマークし、投手のリリース直後の軌道はまた体に向かってくると思わされた。完全に意表を突いた勝負球で見逃し三振に打ち取った。

これまで中村の配球に対し、厳しく指摘することも多かった。考え、やろうとしていることが相手に伝わっていなかった。ジェスチャーも含めて表現力が足りなかったが、今季は意図が伝わるようになってきた。一歩間違えば危険なインスラは行き当たりばったりでは要求できない球。打ち取れる確信があるからこそ捕手はサインを出すが、原もシュートの伏線を感じ取っているから、迷いなく投げ込めた。

現役時代、大事な試合になるほど「頭は冷静に、心は熱く」と心掛けた。優勝を争う試合では気迫がみなぎり、感情も表に出る分、頭も熱さに引きずられがちになる。優勝に王手をかけ、短期決戦のポストシーズンを控えるヤクルトは勝っても緩まず、負けても気持ちを新たに日々、新鮮に戦うことが大事だ。正捕手の中村はそのことが体現できるシーンが増えてきた。(日刊スポーツ評論家)

勝利しグータッチを交わすヤクルトの中村(左)とマクガフ(撮影・足立雅史)
勝利しグータッチを交わすヤクルトの中村(左)とマクガフ(撮影・足立雅史)