完全にTシャツをナメていた。すぐに首回りがヨレヨレになる粗悪品でなければ、型にハマったデザインの既製品でもない。大げさではなく、作り手の思いが込められていた。

阪神の沖縄・宜野座キャンプの日常になった光景がある。メッセンジャーが毎日のように黒いTシャツを着て帰るのだ。「I'm Finally 日本人」とプリントされた手書きの文字が胸に躍る。本人の直筆だった。

裏話がある。オフのある日、Tシャツ製作に取りかかる球団営業部がフレーズをいくつか用意。「Forever Tigers」など複数案を挙げたが、メッセンジャーは首を縦に振らない。自ら提案してきたのが「I'm Finally Nihonjin」だったという。これ、漢字にしたらよくない? 素晴らしいね、それで行こう。そんな意見が交わされたという。自ら漢字にも挑戦。何度か「日本人」を書き直し、完成した自慢のTシャツだ。

来日10年目のプライドがにじむ。国内FA権を取得して外国人枠を外れた歳月をたたえた勲章だろう。実は企画発案したのは、昨年3月まで広報としてメッセンジャーに親身に接した、営業部商品・商標担当の河内英人さんだ。「発売当初の12月は応援グッズが売れにくい時期なのに、すごく売れました。『ついに日本人』という言葉で、ファンの方も日本人扱いを祝ってくれたのだと思います」と思い入れを語る。このキャンプ中、XXXXLサイズの特注1枚を着続けた。気概や情熱がぎっしり詰まったTシャツである。【阪神担当=酒井俊作】