プロ野球のシーズンオフは子どもたちにとって憧れのスターが目の前にいる、貴重な季節だ。野球教室や病院慰問、トークショー。チャリティー活動を行う選手は直接、寄付金を手渡したり、啓発活動に力を入れる。プロ野球が社会に息づく、素晴らしいひとときになっている。これが「当たり前」だと思っていた。
先日、恥ずかしながら知らなかった世界に触れた。NPO法人ベースボール・レジェンド・ファウンデーション代表の岡田真理さんの著書「野球で、人を救おう」(角川書店)を読んでいたときだ。米国のスポーツチームのチャリティー活動を紹介するなかで、大リーグでは、球団運営とは別に、非営利活動に特化した組織を設けている球団も数多くあるのだという。
レッドソックスの「レッドソックス・ファウンデーション」もその1つで活動は多岐にわたる。小児がん支援、子どもへの奨学金提供、経済的に医療が受けられない人たちへのサポート…。野球とまったく関わりのない人たちの支援を積極的に行う。しかも、選手やその家族も深く関わっているという。そこには「野球振興」の視点にとどまらず、もっと深く広く社会と切り結ぶ、もう1つの世界があった。岡田さんは書く。
「彼らにとって野球とは、もはや『娯楽』の域にとどまるものではないはずです。人生において『なくてはならない存在』と感じている人もきっといるでしょう」
ふと、甲子園が脳裏をよぎった。長く追ってきた阪神取材の現場では、いつもバックネット裏の記者席にすさまじいエネルギーが伝わってくる。選手たちが発する磁力、ファンが発する熱量…。こういったパワーも、もっと社会へ取り込むように生かせないものか。なんでもシェアできる時代になった。大リーグはあくまで1つの事例だが、日本のプロ野球が、これから進む、道しるべになりえる。
いまや、多くの選手が強い社会意識を持ち、個々でチャリティーを行う。阪神にも「若林忠志賞」があり、9年目の今年は西勇輝投手が受賞。これまで桧山、藤川、岩田、久保田、鳥谷、能見、タイガース選手会、北條が表彰されている。
だが、こういった個人の活動には限界もある。岡田さんも「まだまだ点と点です」と指摘する。多くのファンを引き寄せるプロ野球チームは社会的公共財と言っていい。球団が、こういう活動のプラットホームになれば、より大きなムーブメントが起きる可能性もある。岡田さんは「『夜明け前』という気配は感じています。球団の人も、やった方がいいと思い始めています。選手個々はもっと熱心で『太陽が見え始めている』印象で、機会があればやりたいと考えている人は多い」と話した。プロ野球が社会のなかでやれることは、まだまだあるはずだ。【遊軍 酒井俊作】





