現在、野球界で注目されている「動作解析」。動きの1つ1つを、主に力学の観点から動作を解析することで、正しい動きを探る。投手編に続き、打撃編について筑波大学硬式野球部の監督で同大学の准教授として動作解析を研究している川村卓氏(49)に聞く。特に若年層の選手に携わる方、必読です。

スポーツ科学の分野で野球を研究している筑波大硬式野球部の監督で、同大准教授の川村卓氏
スポーツ科学の分野で野球を研究している筑波大硬式野球部の監督で、同大准教授の川村卓氏

「まず、打撃について話す前に」と前置きした川村氏は「子どもの持っている体格や体力が依存してくるので、いい打撃とは何かと断言するのは難しい」と話す。

イチロー氏は、どんなボールにもしっかりコンタクトして安打にすることにたけていた。では、松井秀喜氏はどうだったか。本塁打にできる球をしっかり待ち、対応をした。一概にこれがいい、と断言することは難しい。

川村氏 例えば、50メートルしか飛ばせなかった子が練習をして、20メートル飛距離が伸びたら進歩ですが、それは外野フライが増えただけかもしれない。もしかしたら50メートルの方が、前に落ちてよかったかもしれない…という判断もできるわけです。

投手と決定的に違うのは、打者は投手が投じた球に対応することが基本。ベストなスイングをしても、投手の球に対応できなければ無駄になってしまう。

川村氏 これらの考え方を大前提として、力学的な観点で、打撃とは何か。物理量の観点から打球スピードを速くして、投球のスピードに負けない速いスイングをすることが基本。角度をつければ本塁打になる。まずはそこを目指しましょう。

スイングスピードと打球スピードは、打撃にどう関係しているのだろうか。

川村氏 スイングスピードを上げると打球スピードが上がるのは間違いないのですが、しっかりとバットとボールがコンタクトするのが大事です。簡単にいえば、衝突する力が強くなければいけません。バットとボールは円と円なのでボールとバットの中心が同じ方向を向いたときに、衝撃力(直衝突)は大きくなる。簡単に言えば、正面衝突。それによって打球のスピードは獲得されやすくなるのです。

直衝突さえ起こせば、打球は飛ぶ。しかし、より高い直衝突を起こす方法があるのだという。

川村氏 大学野球選手と社会人野球選手とを比べたときに、スイングスピードはほぼ同じでも、打球スピードは社会人の選手の方が大きいというデータが得られた。スイングに対しての打球の角度、インパクト角を計測した。角度がつけばつくほど直衝突していないということなのですが、社会人選手はインパクト角が小さく、0度に近い選手が多いことがわかりました(図<1>)。

 
 

実験での社会人野球の選手は、どんなスイングをしていたのだろうか。

川村氏 インパクトの瞬間の約10センチで打球の方向に対して真っすぐに入る振り方をして「直衝突」が起こっていたのです。

よくプロ野球選手が「線で捉える」というのはこのこと。実際にどのような練習を行うといいのだろう。

川村氏 子どもなら、テーブルの上をバットでなぞる練習がいいでしょう(図<2>)。学校の教室にある机が身長にあっていてベストでしょう。バットに当たらないとか、当たっても飛ばないという子に対しては、こういうドリルをすると振れるようになります。

実際には水平に振ろうとしても、バットの重さで振る際に落ちてしまうが、ボールも同じように落ちてくるため、対応できる。

次回は、スイングスピードを上げるにはどうしたらいいのかを探る。(つづく)【保坂淑子】