最後の花火になるのか、どうか。背水の陣で迎えた「10・19」は一方的なゲームになった。苦手としていたヤクルト奥川恭伸を1回から攻略して4回途中で5点を奪ってKO。最近の貧打がウソのようだった。

阪神対ヤクルト 1回裏阪神無死一塁、左前打を放つ中野。投手奥川(撮影・前田充)
阪神対ヤクルト 1回裏阪神無死一塁、左前打を放つ中野。投手奥川(撮影・前田充)

いいな、と思ったのは1回無死一塁で中野拓夢を迎えた場面だ。試合前まで中野は奥川に11打数無安打。出塁すらできていなかった。顔も見たくない気分だったかもしれない。

そのカウントが1ボールになった後、一塁走者の島田海吏がスタート。高めに外れたボール球だったが中野はバットを出す。これが左前打となり、チャンスが広がった。そして近本光司に先制10号3ラン…という流れである。

相手が苦手だったり、打撃に悩んでいたりというとき、解決策の1つがヒットエンドランというのは昔から言われることだ。強制的にスイングする状況をつくって状況を変えるのだ。

それがぴしゃりとはまって指揮官・矢野燿大もうれしそうにしていた。「ずっとやられていた投手なので全員で攻略できてよかった」。勝利後の談話にこの場面もチラついたことだろう。中野は3回にも奥川から右前打を放ち、苦手意識を振り払えたかもしれない。

大山悠輔も佐藤輝明も梅野隆太郎も、さらにサンズもスタメンから消えた。重くなるのは仕方がない。それだけに持ち味の積極性を失わないことが大事だろう。足も絡めて攻める姿勢だけは忘れないでほしい。

もっとも圧勝したからといって「M4」のヤクルトの優位に変わりはない。大事なのは2戦目だ。打棒爆発の翌日に打てず「昨日の2、3点置いとけよ」とボヤくのはよくある。20日も先発左腕・高橋奎二に1回から襲いかかってほしい。

個人的に矢野阪神で印象深いのは19年、シーズン最後に6連勝を決め、3位に滑り込んだときだ。矢野もナインも上気した顔で戦っていた。糸原健斗がコーチの筒井壮に「やっぱり勝つのはいいですね。勝ちたいです」と話した頃である。

長かったシーズンも残り5試合となった。すべて勝てばその19年をしのぐ7連勝フィニッシュとなる。そうなったとして、やはりヤクルト有利なのだが阪神が勝ち続ければそれなりの重圧にもなるはず。何よりも虎党だけでなく野球ファンのために最後の最後までシーズンを盛り上げる。それが猛虎戦士に求められる仕事だろう。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対ヤクルト ヤクルトに勝利し、ファンにあいさつする矢野監督(撮影・上山淳一)
阪神対ヤクルト ヤクルトに勝利し、ファンにあいさつする矢野監督(撮影・上山淳一)