史上初の2度目のセンバツ連覇を狙う大阪桐蔭が競り勝った。エース前田悠伍投手(3年)が1失点で完投した。

不調の中でも少しずつギアを上げ、特に必殺チェンジアップが無双状態。8年前に0-11と完敗した敦賀気比(福井)打線を毎回の14奪三振で封じ込めた。今大会の主役で、今秋ドラフト1位候補の左腕が格の違いを見せつけた。

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134球目。三ゴロで試合を締めると、大阪桐蔭・前田の表情は少しだけ緩んだ。「厳しい試合展開になると分かっていた。初戦が一番大事とチーム全体で話していたし、自分もここに一番力を入れて合わせていました」。3-1。打線が苦しむ中で最少失点完投。まさにエースの仕事だ。

3度目の甲子園。昨春は13イニング自責なしと圧倒し、優勝に導いた。それでも大会の初登板は別。さらに本調子ではなかった。配球も単調になり、とらえられた。4回には左翼線を抜かれて1失点した。

中盤から下半身主導のフォームに修正し、6回からは配球も変えた。走り始めた直球とチェンジアップを軸にして、奥行きを出した。重要な場面でチェンジアップに頼り、14三振のうち7個を得意球で奪った。

多くのスカウトが評価するのがこの魔球だ。直球と同じ腕の振り、同じ軌道から急ブレーキがかかり、シンカー気味に沈む。3月の練習試合。強豪校の右打者が体に迫る内角直球と思い、大きくのけぞったがストライクゾーン付近に収まった。初見では攻略が難しい。

少しずつギアを上げていき、この日の最速は142キロ。ネット裏のスカウトのスピードガンで147キロも記録した。2点差を守り抜く投球に「後半に向けて力を入れていこうと思っていた。予定通りの投球ができた」とうなずいた。

史上初2度目の連覇という重圧がある。試合前から選手は硬かった。室内でのウオーミングアップ中、不振が続く1番山田に、西谷浩一監督(53)はおもむろに「これ着てみろ」と自らの大きなユニホームを手渡した。普段SSサイズをピチピチに着る山田が羽織るとガウンのようになり、みんなが大笑いした。

「自分以外はほとんどが初めての甲子園。今日、経験っていうのはすごいなとあらためて思った。みんなが今日で甲子園を経験できた」と前田が言う。甲子園に吹く浜風の特徴などをナインに伝授するなど、主将としての役割も大きい。世代NO.1左腕の存在感が際立つ初戦突破だった。【柏原誠】

▽大阪桐蔭・西谷浩一監督(前田の投球に) 80点くらい。いい投球でした。7回くらいに何か言おうかと思ったら、どうせ言われるんだろうと思ったのか笑っていた。よく「へばってるのか?」と聞くので。終盤は結構本気でしたね。

◆前田悠伍(まえだ・ゆうご)2005年(平17)8月4日生まれ、滋賀県長浜市出身。小学6年時にオリックスジュニア選出。高月中時代では湖北ボーイズに所属。昨秋の神宮大会では、準決勝の仙台育英戦で完投するなど大会初の連覇に貢献。180センチ、80キロ。左投げ左打ち。

◆大阪桐蔭の主将 前田はエースで主将。大阪桐蔭の甲子園出場時に背番号1で主将だったのは、10年春の福本翼以来2人目。

◆毎回奪三振 大阪桐蔭・前田が記録。春の毎回奪三振は、継投を除き22年五島幹士(大垣日大)が只見戦で記録して以来。

◆前年王者が白星スタート 昨年優勝の大阪桐蔭が初戦突破。前年優勝校が連覇を狙うのは41度目。初戦突破は30度目になる。過去の春連覇は29、30年第一神港商、81、82年PL学園、17、18年大阪桐蔭が達成。

◆大阪桐蔭対敦賀気比 甲子園では3度目の対戦となり、大阪桐蔭が2勝1敗とした。14年夏準決勝では大阪桐蔭が3本塁打を含む12安打で15-9と逆転勝ち。15年春準決勝は敦賀気比・松本が春夏甲子園で史上初の2打席連続満塁本塁打を放ち、平沼の完封で11-0と快勝。過去2度とも、勝者が優勝している。

◆西谷監督が春30勝王手 大阪桐蔭・西谷監督が甲子園通算65勝目(春29勝、夏36勝)。最多68勝の高嶋仁監督(智弁学園-智弁和歌山)へあと3勝。春の29勝は中村順司監督(PL学園)の31勝、前記高嶋監督の30勝に次ぎ、3人目の春30勝に王手となった。

○…打線は左腕を攻略した。敦賀気比はエース右腕の辻ではなく、左腕の竹下が先発。3回は左打者の3連打で2得点。先制適時三塁打の2番村本は「左投手は左打者がどれだけ打てるか。しっかり振っていこうと意識していた」と話す。西谷浩一監督(53)は「辻君が状態が悪いんじゃないかという情報も入っていまして。竹下君で来るんじゃないかなというふうに準備はしていましたけども、やはり思い通りに打てませんでした」と、センバツ初戦の難しさを口にした。