富士大(岩手)の最速149キロ左腕鈴木翔天(そら、3年=向上)が八戸工大(青森)戦に先発し、9回で118球を投げ、15奪三振(内野ゴロ7、内野飛球1、外野飛球4)でリーグ史上初の完全試合を達成した。仙台6大学、南東北には過去に完全試合の達成がなく、東北3リーグでも初の偉業となった。試合は富士大が4-0で八戸工大を下し、リーグ8連覇へ弾みをつけた。

 「ヨッシャー!」。偉業達成に、鈴木翔は思わず絶叫した。完全試合を意識し始めた背番号14は、8回から自分を制御していたリミッターを解除し、通常以上の力で左腕を振った。最後の打者を外角直球で見逃しを奪い、5者連続三振で締めくくると、仲間がハイタッチで祝福してくれた。

 鈴木翔 まさか自分ができるとは思わなかった。うれしい。最後は意識してギアを上げた。完全試合を達成した瞬間は、無意識で声が出た。

 自在に投球を組み立てた。左打者には外角のスライダーを、右打者には外角のチェンジアップを有効に使い、決め球のフォークを封印する余裕まであった。今夏に習得した新球チェンジアップは120キロ台でシュート気味に沈む。「タイミングが全く合ってなくて、勝手に打ち損じてくれた」。この日は直球と同じ腕の振りから繰り出す新球に相手打線が対応できず、三振と凡打の山を築いた。

 新球は敗戦の中からつかんだ糧だった。6月の大学選手権で敗れた立大のエース左腕田中誠也(2年=大阪桐蔭)が富士大打線を抑えたのを間近で見て、ひそかに研究を始めた。「ウチの強力打線のバットがクルクルと回っていた。チェンジアップは有効だと思った」。独自で握りを研究し、7月の東北地区選手権から使い始めて秋本番に間に合わせた。「組み立てが楽になった。投球の幅が広がった」と胸を張った。

 負けられない一戦でもあった。前日26日は、春季リーグで最下位だった八戸工大に敗れていた。「今日は一戦も落とせない中、いつも以上に慎重に投げた。自分は波がある投手なので、悪いときも悪いなりに抑えられる投手になりたい」。現在、3勝1敗の2位。鈴木翔の左腕が、リーグ8連覇をたぐり寄せる。

 ◆鈴木翔天(すずき・そら)1996年(平8)8月19日、神奈川・横浜市生まれ。南本宿小3年から野球を始め、万騎が原中では瀬谷シニアに所属。向上高では高3夏に2番手投手ながら決勝に進出するも、東海大相模に敗退。富士大では1年春からベンチ入り。184センチ、82キロ。左投げ左打ち。家族は両親、兄、姉。両親から「大きく羽ばたける人になれ」と翔天と命名された。