史上初の無観客で行われた大相撲春場所。三段目は元幕内の宇良(27=木瀬)が7戦全勝の決定戦を制して優勝した。

新型コロナウイルス感染症の影響で開催が懸念されている夏場所では、幕下復帰が確実。ようやく関取の座が見えてきたところにコロナ禍と、本人の心中を思ってしまう。

早く十両、幕内の土俵で見たいと願う1人だ。関学大相撲部出身で、動画で披露したアクロバティックな動きで入門前から注目を集めた。15年春場所の前相撲からのスタートで、順調に出世を重ねた。最高位は17年名古屋場所の東前頭4枚目。そこから膝のケガで地獄を味わった。

17年秋場所を右膝の負傷で途中休場し18年秋場所、三段目で復帰するまで1年を要した。さらに19年初場所でも同じ箇所を負傷して手術、長期の休場。19年九州場所は序二段106枚目で復帰。力士にとっては致命傷に近い膝のケガ、2度の手術を乗り越えての土俵復帰は感動だった。

復帰の階段をのぼる宇良を取材する過程で、興味深かったのが取り口や、狙いについて「相手に知られるので、話したくない」。前頭上位まで番付を上げた立場が序二段、三段目でも同じ姿勢を貫いた。三段目で最も警戒したことも「対戦したデータがないことが怖い」。上からではなく、同じ目線で歩むことが、順調な結果につながっている。

ただ、三段目までは格の違いでも星を重ねられてきたとはいえ“関取予備軍”の幕下ではどうか。最も恐れているのが、右膝のケガの再発であり、春場所の時点でも通常のぶつかるけいこはできていない。春場所で三段目優勝を飾った後も「気遣いというより(ケガをしないよう)気をつけている感じ」と話していた。

土俵の上は過酷な世界。一瞬の不運から、力士生命を奪われる場面を少なからず見てきた。2度の手術、2度の長期離脱。心が折れそうな苦難を乗り越えて、再び関取の座を目指す宇良は自然と応援したくなる。その個性は、大相撲の活性化においても間違いなく必要だと思う。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)