元宝塚歌劇団雪組トップの望海風斗と歌手平原綾香がダブルキャストで出演する舞台「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」が今日29日、東京・帝国劇場で初日を迎える(プレビュー公演は24日開幕)。このほど2人が取材に応じ、同作出演への思いや、子供時代に出会い、再びめぐり会った運命を語った。公演は8月31日まで。【小林千穂】
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宝塚時代から圧倒的な歌唱力で知られた望海と、幅広い音域と慈愛に満ちた歌声で知られる平原。2人の歌姫が、パリのナイトクラブ、ムーラン・ルージュのスター、サティーンを演じる。アメリカ人作家クリスチャンと恋に落ちる物語で、各国で話題になった作品の日本初演だ。
望海 早くお客様に見てほしいです。初演のプレッシャー? そういえば忘れてました。日本で上演できる喜びの方が大きいです。上演は7カ国目なので、安心して委ねてるところはあります。
平原 私もプレッシャーというより、みんなが心地よい演技や歌、踊りができるように、と思います。映画版もいいけど、このミュージカル版が好きって言ってもらえるように最善を尽くしたいですね。
オーディションで役が決まり、ダブルキャストのもう一方を発表で知った時は高揚した。
望海 すごいものになりそうだと思いました。
平原 おー! って感じでした。
2人の出会いは、同じバレエ教室に通っていた少女時代にまでさかのぼる。
平原 クラシックバレエを習ってた時、あやちゃん(望海の愛称)とバレエ教室で出会いました。お互いレオタード姿しか見てなかったんですけど、20年たってまた、お互いちょっとレオタードっぽい姿で再会っていうのは運命的なものを感じますね。
望海 (仕事で一緒になることは)なかったですから。
平原 ちょうど私が(19年再演の)「ラブ・ネバー・ダイ」で日生劇場に出ていた時、あやちゃんが隣(東京宝塚劇場)で「ファントム」やってたんです。
望海 私は別の子の面会に行ったんですけど、覚えてるかなとチラチラ見ていたら、ちょうどバレエ教室の先生がいて、こっちおいでよって声掛けてくれて。そこで久しぶりに再会しました。
平原はあーや、望海はあやちゃんと呼ばれている。同じ舞台で、同じ役に挑む。互いの魅力を聞いた。
平原 立ってるだけでスター感が半端ない! いるだけでいいみたいなところがすごくいい。それにあやちゃんはすごく面倒見がいいんです。お稽古中、コルセットが締められなかったらちゃんと締めてくれるし。持ってきてるおにぎりは必ずチンして食べる。そばにいていとおしいです。
望海 温かいんですよね。人として、目の前の人に向き合う姿がすてきです。スルーしがちなことでも、あーやは何でだろうって考える。ダブルキャストですごく刺激をもらってるし、学びもたくさんあります。
平原 私もありがたいですね。
ダブルキャストのため、2人が同時に舞台に立つ姿は見られないのだが、そんな日がいつか…と言うと2人とも「やりたいね!」と声をそろえた。
「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」には、ヒット曲、名曲の数々が約70曲ちりばめられている。2人にお気に入りの1曲を聞くと、エルトン・ジョンの名曲「Your Song」を挙げた。
平原 外せないよね。
望海 鉄板だね。
平原 今回ユーミン(松任谷由実)さんが訳詞してくれたじゃない? お稽古場で聞いた時、ちょっと涙ぐんじゃったもん。こんなにいい曲なんだって思いました。こんなにまっすぐに、人に愛してるって歌われたの初めてだと思うので、もう癒やしです、癒やし。
望海 それに、この曲がクリスチャンとサティーンの言葉となっていくというか、つながりになる曲なのですごく大事。(井上)芳雄さんも(甲斐)翔真くんもどちらもすごくすてきな「Your Song」を歌ってくれるから特等席で聞いてる気がする。あんなに歌ってもらうことないよね(笑い)。
平原 そう、いつもあやちゃんとお昼ごはんを食べながらそんな話してます(笑い)。
◆ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル 1899年のパリ。アメリカ人作家クリスチャン(井上芳雄と甲斐翔真のダブルキャスト)は、ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の花形スター、サティーン(望海と平原のダブルキャスト)と恋に落ちる。クリスチャンはクラブの経営危機を救い、サティーンの心をつかもうとする-。バズ・ラーマン監督の映画「ムーラン・ルージュ」(01年)をミュージカル化。18年のボストン公演を皮切りに、19年にブロードウェーで公演。トニー賞10部門。
<望海風斗>
◆生まれ 横浜市
◆経歴 03年宝塚歌劇団入団。同年、花組配属。14年雪組へ。17年トップスター就任。21年退団。退団後「ガイズ&ドールズ」「DREAMGIRLS」など、舞台で活躍
◆賞 23年菊田一夫演劇賞、読売演劇大賞優秀女優賞など
◆今後やってみたいこと 1人の相手ととことん向き合うような作品に出会ってみたい
◆宝塚で培ったことが生きている瞬間 衣装の早替わりや大きい舞台での目線や呼吸、ショーシーンでのパフォーマンスなどは、やはり宝塚での経験に感謝しています
◆夏場の長い公演を乗り切る工夫 自分の体の声を聞いて、食事や睡眠をしっかり取らないと、と思っています。夏は熱中症にも気をつけないといけないので、ちょっとした体調の変化も気にするようにしてます
<平原綾香>
◆生まれ 東京都
◆経歴 03年「Jupiter」でデビュー。同曲でレコード大賞新人賞、NHK紅白歌合戦出場など。コンサート、楽曲提供、タイアップなど多数。映画、ドラマ出演も。14年「ラブ・ネバー・ダイ」でミュージカル初出演
◆賞 05年日本ゴールドディスク大賞、10年岩谷時子賞奨励賞など
◆今後やってみたいこと 今年はデビュー20周年。自分の音楽を見つめ直すためにもプロデューサーをたてるなどのチーム作りもしていきたい
◆初挑戦から10年目のミュージカルの魅力 自分ではない誰かを演じることが、自分を豊かにさせてくれると感じています。大好きな歌とともに物語の中で生きることができるミュージカルは最高です
◆夏場の長い公演を乗り切る工夫 声帯さまを大事に、よく寝て、食べて。ご縁あって集まったキャスト、カンパニーの方々と一緒の空間を感謝して楽しむこと