Jリーグの新シーズンが始まり、気がつけばコロナ騒動から1年が経とうとしています。フットボールの本場ヨーロッパでは未だに無観客での試合運営が続いており、一向に収束が見えていない状況です。そのような中、この数日の間に衝撃的なニュースが現地から飛び込んできました。“バルセロナゲート事件”による前会長の逮捕でした。翌日には釈放されましたが、バルトメウ前会長らがSNSのモニタリング企業を使ってソーシャルメディア上で選手や関係者を中傷させたとの疑惑が持たれている上、相場の6倍の報酬を支払うなど不透明な金の動きがあったとも報じられました。このSNS操作事件の裏側にある狙いとしては当然バルトメウ会長の保身が大きいように見えますが、別の要素も大きく関わっているように感じます。


今シーズンの目玉として、レアル・マドリードから久保建英選手をローンで獲得し(久保選手はその後の1月のマーケットでヘタフェにレアルからローン移籍)、久保選手だけでなくダニエル・パレホやフランシス・コクランもチームに引き入れた事でリーガの台風の目になるのでは? とされたビジャレアルですが、今回の話題ともなるSNS上でも存在感を増しておりました。現地の報道によれば2020年8月のビジャレアルのツイッター上のインタラクション(閲覧者が何か行動を起こしたケース)について、バルセロナ、レアル・マドリード、セビージャに次ぐ4位だったとありました。フォロワー数で見ればビジャレアル(52万)はアトレティコ・マドリード(468万)の約10%強でしかないにもかかわらず、です。ちなみに、2019年もリーガ・エスパニョーラに7年ぶり復帰を果たしていたマジョルカも当時はSNSでのフォロワー数増加が話題となっており、ツイッター、インスタグラム、フェイスブックの3種でフォロワー数が16万以上も増加。久保選手の加入発表後は特にアジアを中心にフォロワー数が急増しており(ツイッターで移籍発表直後に1万1000人もフォロワーが増加)、フェイスブックでは1投稿あたり『いいね』の割合が261%も増加したとありました。

 

こういったリーガのSNSの数字部分に注力が行くには理由があり、それはリーガのテバス会長によって2015年に行われた放映権の分配制度の変更によるものです。それまでは各クラブの映像会社との個別交渉がおこなわれておりましたが、これがスペインプロリーグ機構の一括管理へと移行になりました。


放映権の配分内訳:

1 リーガ1部:総収入の90%/リーガ2部:総収入の10%

2 1部に配分された金額を更に以下の取り決めで各1部所属のチームに分配

50% 各チームへの均等配分

25% 25%が過去5シーズンの結果に応じて配分

25% チケット売り上げやTVの視聴者数、SNSのフォロワー数などを加味して配分


今回トピックスとして覗きたいのはこの最後にある25%の比率の部分で、チケットの売上や視聴者数によってとありますが、ここにSNSのフォロワー数も加味されているわけです。このSNSのフォロワー数が加味されるということが発表されて以来、各チーム一斉にSNSに対しての意識が高くなったのは言うまでもありません。


そのような中起きた今回の「バルサゲート事件」ではありますが、単純に選手の誹謗中傷だけが問題なのではなく、チームのSNSのフォロワー数を情報操作することで分配金の配分取得率を不当に上げていると判断されれば、リーガの信頼損失にもつながりかねません。メッシのラストダンスと言われる今シーズンではありますが、バルセロナ前会長含めてこの数年メッシとともに築き上げてきたものが一気に崩れ、大きな危機に瀕することになります。

何よりもスポンサー離れが懸念され、メッシ離脱後、ピッチ上での魅力が確保されるのかどうかがポイントになります。リーグ運営からの視点では、レアル・マドリードもC・ロナウドが抜けて新ストライカー獲得に目処が立っておらず、リーガ・エスパニョーラにおける2強が崩れることでリーガそのものの魅力減ということにもなりかねません。

SNSによって、欧州各クラブが世界に発信できる機会は格段に増えました。ただその運用には様々な目に見えないリスクが存在していると行っても過言ではなく、まさに両刃の剣であることも確かです。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)