世界記録は、幻と消えた。昨夏の東京パラリンピック女子マラソン(視覚障害T12)金メダルの道下美里(45=三井住友海上)が、世界記録を上回る1時間23分34秒でフィニッシュしたが、失格となった。伴走者が先にゴールラインを通過した違反のため。ゴール前後には混乱もみられ、東京五輪・パラリンピックの1周年記念事業として実施された第1回大会は、課題と後味の悪さも残して幕を閉じた。

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快挙達成の華やかな雰囲気は、戸惑いと混乱に一変した。昨夏に続いて再び東京の街を快走した道下だったが、伴走者が先にゴールラインを超えたとされ、まさかの失格が下された。

男女の性別関係なく、トップ競技者も市民ランナーも、さらにパラ競技者も一緒になってゴールを目指したレース。多様性をうたった東京五輪・パラリンピックにふさわしい光景が展開されたが、手探りな第1回大会だからこその落とし穴も潜んでいた。

道下が女子ブラインドランナーとして真っ先にフィニッシュに向かおうとしていたとき、ゴール前はごった返していた。道下の伴走役を務めた志田淳さんによれば、ゴール約100メートル手前で係員の指示を把握できず「どっちに行けばいいのか分からない状況だった」。

通常はコースの外側寄りにゴールするが、この日は突如、内側にゴールテープが張られたことも混乱に拍車を掛けた。「あれっと思った」(志田さん)。前を行く走者が慌てて外側へと進路を取り直す中で、接触を避けることを最優先。結局2人はテープを切れずにフィニッシュしたが、このときに志田の足がわずかに先に出てしまった。

ゴール後に志田さんは「全部伴走者のせいです。私がミスリードしてしまったのがすべて」と責任を負った。その隣で道下は「こういうこともあります」。いつものにこやかな表情でパートナーをかばった。

早野忠昭レースディレクターはレース直後「原因究明中。どちらに原因があったとしても、再発がないようしていきたい」と述べた。その後、主催者の東京マラソン財団は「ルールに照らして、公正に判断されたと認識しております」との見解を文書で発表。具体的な原因や再発防止策に関する言及はなかった。【奥岡幹浩】

◆東京レガシーハーフマラソン 東京五輪のマラソンと競歩の2競技が札幌に移されたことに伴い、国際オリンピック委員会(IOC)側が提案した大会。東京パラリンピックのコースも活用され、国立競技場をスタート地点に富久町、水道橋、神保町、神田、日本橋を経て大手町で折り返し、再び同競技場へと戻る21・0975キロ。今年はトップクラスの長距離選手やパラの選手、市民ランナーら約1万4000人が参加した。今後も毎年10月に開催される。

〇…女子は市民ランナーの山口が日本勢トップの1時間10分35秒で3位に入った。途中までは16年リオデジャネイロ五輪男子カンボジア代表の猫ひろしらのそばを走り、「猫さんは沿道に向かって『にゃーにゃー』とされていて、すごいなと思った」。8月の北海道マラソンで優勝してグランドチャンピオンシップ(MGC)出場権を獲得済み。来年1月の大阪国際女子マラソンでは「積極的なレースをしたい」と気持ちを入れ直した。

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