日の丸を背負う男の覚悟と責任、そして最愛の母への思いが、NBL挑戦への後押しをした。

 バスケットボール男子日本代表の比江島慎(27)は3日、東京都内で会見を開き、日本人初のNBL入団となるオーストラリアのブリスベン・ブレッツへの移籍を報告した。

 「W杯と東京五輪を考えたときに、この年がラストチャンスだと思った」

オーストラリア・ブレッツへの移籍会見に臨んだ比江島(撮影・戸田月菜)
オーストラリア・ブレッツへの移籍会見に臨んだ比江島(撮影・戸田月菜)

 このタイミングでの海外挑戦を決意したのは、4月に亡くなった母淳子さんの思いもあった。

 東京五輪の予選も兼ねるワールドカップ(W杯)の出場権をかけたアジア1次予選。昨年11月の第2戦で、日本はオーストラリアに58-82の大差をつけられて敗れた。「日本よりもフィジカルが一段上で、ヨーロッパに似たきれいさがある」とオーストラリアのバスケットボールにほれ込んだ。

 「オーストラリアでプレーしてみたいな」

 漠然とNBLにも興味を持った息子の何げない一言を、比江島のマネジメントも手がけていた母は聞き逃さなかった。以降はオーストラリアのバスケットボール関係者にパイプを持つ人物に積極的に連絡を取り、比江島がオーストラリアでプレーできる道が開けるように献身的に支えてくれていた。

 17-18年シーズンも佳境に入った4月21日、最愛の母が息を引き取った。「母がずっと裏で動いてくれていて、後押ししてくれていた。ここでオーストラリアに行かないと」。淳子さんの思いと、自分の夢が重なったことが、27歳に大きな決断を選ばせた。

 7月19日、海外挑戦を認める条件で栃木と18-19年シーズンの契約の締結を発表。その後もNBLとの交渉も続き、7月26日、アジア人枠としてブレッツとの契約書にサインをするまでにたどり着いた。

 淳子さんが作ってくれたオーストラリア挑戦への道。同月末には地元福岡に戻り、母の墓前に手を合わせながら静かにオーストラリア行きを報告した。「英語もできないし、私生活には不安がある。オーストラリアで寂しい思いをしていると思うので、僕のプレーにも良い影響が出ると思うしファンの皆さんには是非足を運んで欲しい」と本音をもらしながらもにっこりと笑った。

 青学大の先輩である辻直人(28=川崎)にも真っ先に移籍の報告をした。「最初から辻さんには相談に乗ってもらっていた。実際に決まって、うれしいって言ってくれて『頑張って』と背中を押してもらった」。周りからの支えの大きさをかみしめながら「また1つ成長できる環境があることに感謝」と言った。

W杯中国大会アジア地区1次予選 日本対フィリピン 第1Q、シュートを放つ比江島慎(2017年11月24日)
W杯中国大会アジア地区1次予選 日本対フィリピン 第1Q、シュートを放つ比江島慎(2017年11月24日)

 今年6月29日には、同予選の第5戦で再びオーストラリアと対戦し、79-78で勝利する大金星を挙げた。八村塁(20=ゴンザガ大)、ファジーカス・ニック(34=川崎ブレイブサンダース)の新加入も大きな力となり、この勝利は日本男子バスケにとっての自信にもなった。

 「オーストラリア戦では、日本のインサイドが世界でも通用することを証明してくれた。塁(八村)、渡辺(雄太)たち海外でプレーする下の世代からも、おかしいかもしれないですけれど刺激を受けたし、アジアでは通用する自信も得られた。やっぱり僕のポジション(シューティングガード)が海外に行かなきゃいけないと思った。オーストラリアではBリーグより体もごつくて背も高い選手とマッチアップして、1対1を磨いて日本代表にも還元したい」

 ブレッツにはアジア人枠として加わり、プレータイムは自分で信頼を勝ち取らなければならない。「オフェンスはうまくステップを磨いてやっていけば大丈夫かなというイメージはある。ディフェンスでは少し心配はあるけれど…」。

 栃木との契約をいったん解除しての入団となり、栃木のブースターに向けては「僕自身も栃木でのプレーを楽しみにしていたんです」と話し少しうつむいた。ブレッツのレギュラーシーズンは2月16日のホーム戦が最後。プレーオフ進出ができなかった場合にはBリーグの18-19年シーズンの選手登録期限(2月末)には間に合う。したがって、3月~5月に日本でプレーできる可能性はゼロではない。

 「成長した姿、プレーをお見せしたい」と進化を誓った。母とともに歩んできた挑戦の、新たなステージがここから始まる。【戸田月菜】

 ◆比江島慎(ひえじま・まこと)1990年(平2)8月11日、福岡県生まれ。洛南高、青学大を経て13年に当時のアイシンに入団し、新人賞を獲得。同年から日本代表。昨季Bリーグレギュラーシーズン最優秀選手賞、2年連続でのベスト5に選出。ポジションはシューティングガード(SG)。190センチ、88キロ。