ロンドン切符をかけた五輪代表選考レースが、今日20日の横浜国際女子マラソン(午後0時10分スタート、日刊スポーツ新聞社後援)を皮切りに始まる。熱い女たちの戦いは、来年1月29日の大阪国際女子、3月11日の名古屋ウィメンズ(旧名古屋国際)へと続く。そこで五輪選考レースを知り尽くす男、本紙評論家・瀬古利彦氏の登場だ。女子マラソン界の現状から五輪切符の行方まで、おなじみの「瀬古節」をお届けする。

 8月の世界選手権。金メダルが期待された尾崎好美は18位に沈み、日本人最高は5位の赤羽有紀子だった。混沌(こんとん)とするロンドン切符争い。まずは女子マラソンの現状から。

 瀬古

 世界選手権でも、トップ選手は2時間20分を切る力を持ってるよ。あの遅いペースだから余裕しゃくしゃく。でも日本人は余裕がないから、最後に行かれると離れちゃう。尾崎にしても赤羽にしても、持ちタイムが2時間23~24分というのは世界基準ではない。やっぱり野口(みずき)やQちゃん(高橋尚子)ら、その前の時代から比べると2~3分悪い。世界基準は2時間20分前後。それに近い記録を出せる力がないと、余裕を持ってスパートの場面は迎えられないな。

 -記録を狙いながら、どうレースをつくるのか

 瀬古

 そう。実力をこれよりもう1つ、2つ段階を上げないと世界に通用しない。誰がQちゃん、野口のレベルに行けるかということ。

 -今回から女子の五輪選考レースとしては、初めてペースメーカーがつく

 瀬古

 選考会となればタイムレースでなく、勝負レースになってしまう。力はなくても生き残れれば、勝つ可能性だってある。だから速い展開なら本当に力がある人じゃないと残れない。そういう点ではおもしろい。今回はただ勝つだけじゃあ、評価されないよ。

 今回の横浜国際女子には、まず尾崎が出場。そして注目の野口は大阪、福士は大阪か名古屋。世界5位でやや優位な立場の赤羽は、ライバルたちの動向をにらみ、出場を検討する。

 瀬古

 この3大会なら当然、尾崎、赤羽は有力だろうな。ただ、期待するのは福士と野口だな。

 -野口は3年以上もマラソンを走っていませんが

 瀬古

 ちゃんと練習ができていれば、過去のものがよみがえってくる。モノが違うからね。仮に私が一緒に走ったら、30キロをすぎて怖いのは野口と福士だな。赤羽、尾崎ならちょっと展開が読めるけど、野口と福士は読めない。そこが魅力っていえば魅力。

 -また中里は「Qちゃん2世」と評判ですが

 瀬古

 確かに顔は似てる。けど顔じゃあな。ほかに北京で代表の中村友梨香も気になるが、ちょっと切れが戻っていない。あとは…、小出さんのとこの新谷仁美だよ。フォームもマラソン向きだし、スピードも申し分ない。大化けするチャンスがある。9月の国体で見たけど「練習してるな」って感じだった。スタイルも変わった。体が絞れ、モデル体形で足も長い。隠し玉なら一押しだな。

 -瀬古さん自身、五輪選考レースを何度も走っていますが、決め手は

 瀬古

 「ここで走んなきゃ」ってプレッシャーがかかる。だから今まで培ってきたものが自信になるし、そういう選手が強い。やはり野口は実績もあるし、世界を知っている。強いよ。【取材・構成

 佐藤隆志】

 ◆横浜国際女子マラソンのコース

 山下公園前をスタートし、横浜市内を巡って同公園内にゴールする42・195キロ。最大の特徴は、最高地点と最低地点との高低差が7・3メートルと小さく、平たんなこと。海風を受けやすい環境だが、気象条件さえ整えば好記録が狙える。また、今回は女子の五輪選考レースとしては初めてペースメーカーを採用。日本人トップは2時間22~23分台の記録が求められる。

 ◆女子マラソンのロンドン五輪代表選考

 今夏の世界選手権と今回の横浜国際、来年1月29日の大阪国際、同3月11日の名古屋ウィメンズが対象レース。各大会の上位から、五輪での活躍が期待できると思われる3人が選ばれる。世界選手権はメダル獲得した最上位者が代表に内定するはずだったが、当該者はいなかった。