「F1機能」搭載のハイテクシューズで難コースを制す。高橋尚子、野口みずきら五輪マラソン金メダリストのシューズを手掛けた、靴づくりの名工・三村仁司氏(63=ミムラボ)が1月31日までに、アディダスとの共同開発でロンドン五輪仕様の新型マラソンシューズを完成させた。雨でぬれた路面でも滑らないようにF1マシンのタイヤ素材を使用。世界選手権7位の堀端宏行(25=旭化成)、横浜国際優勝の木崎良子(26=ダイハツ)、3月の名古屋ウィメンズに出場する尾崎好美(30=第一生命)ら有力選手が履く予定で、日本人ランナーのメダル獲得を力強く後押しする。

 世界のミムラが手掛けた新型シューズは画期的だった。「アッパー(靴の上部)だけで15回替えた。プロですから妥協はしたくない」。三村氏は自信を持って話した。その名は「タクミ・戦(セン)」。通常、企画から完成まで1年半のところを、素材選びにこだわり続け、2年の歳月を要した。片足約170グラムという軽量化に成功し、高性能メッシュで通気性と高い撥水(はっすい)性を実現。そして、極め付きは靴底にあった。

 ロンドン五輪のマラソンコースは石畳の路面もあり、雨が降れば滑りやすい。そんな悪路を考慮し、足の着地がぶれないよう路面へのグリップ力を高めた。従来の靴底にはない「いぼ状ラバー」をびっしり付け、かかと部分外側にはドイツのタイヤメーカー「コンチネンタル社」製のゴムを採用。それは雨天でも高速運転できる、F1車のタイヤと同じ素材だった。

 三村氏とタッグを組むアディダス・パフォーマンス事業部の萩尾孝平氏(38)が提案した。「従来の素材と比較しても、ぬれた路面で約40%、乾いた路面でも約30%も上回ることがデータで証明されています」。元トライアスロン学生王者として、五輪出場を目指した経歴を持つ。そんな選手目線から雨天でも滑らぬF1カーの足元に着目。結果的に「F1機能」を搭載した、前代未聞のハイテクシューズが出来上がった。

 三村氏は00年シドニーの高橋尚子、04年アテネの野口みずきのシューズを手がけ、五輪金メダルをアシストした。10年1月にアディダスと契約し、「日本人を速くする」ことをテーマに開発した最初の作品だ。

 「いい靴を提供できた。本番に向け、まだ改良していく」。世界に誇る匠(たくみ)の技が、日本マラソン界の足元を支える。【佐藤隆志】

 ◆三村仁司(みむら・ひとし)1948年(昭23)8月20日生まれ、兵庫県加古川市出身。飾磨工時代は長距離選手としてインターハイ出場。66年にオニツカ(現アシックス)に入社。シューズづくりは40年以上にも及び、君原健二、宗猛、宗茂、瀬古利彦、谷口浩美から、現在は木崎良子、尾崎好美までカバー。04年に厚生労働省の「現代名工」表彰を受ける。09年にアシックス定年退社後、加古川市に「ミムラボ」を設立。