<陸上:セイコーゴールデングランプリ東京>◇5日◇東京・国立競技場

 男子100メートルで10秒01のジュニア世界タイ記録を持つ桐生祥秀(よしひで=京都・洛南高3年)が、今季の目標タイムを9秒96に設定した。初めての国際大会は、向かい風1・2メートルで10秒40。9秒台ランナーを1人倒して3位に入った。黄色人種初の9秒台は持ち越しとなったが、17歳は「もう1段階上げれば、勝負できる」と手応え十分。自己ベストを0秒05短縮する目標を掲げ、大物ぶりを発揮した。

 桐生が、衝撃の目標タイムをさらりと口にした。陸上部の伝統で、部員は目標を部室の黒板に書いている。10秒01を出した織田記念国際から2日後の今月1日、その数字は書き込まれた。

 桐生

 9秒96です。パッと思いついた。10月までに9秒96は出しておきたい。

 黄色人種で初めて10秒の壁を突破する9秒99ではない。「深く考えずに思いついた数字を書いて超えることが何度もあったので」。昨年は10秒30を黒板に書いて、同11月に10秒19のユース世界最高を記録した。今回は自己ベストを0秒05短縮する目標を立てた。9秒99は17歳にとって区切りではない。

 初の国際大会は、手応え十分だった。向かい風1・2メートルと記録を狙うには難しい条件で「9秒台よりもレースに勝とう」。中盤まで強豪と競り合い9秒97のタイムを持つサラームに先着し3位。10秒40で9秒台は持ち越しも「前半そこまでいかれていない。後半の伸びが全然違うが、ストライド、ピッチを1段階上げれば勝負できる」。この日は号砲から15歩までの前傾姿勢を2歩増やすトライも行った。初舞台で堂々のレースだった。

 一方で試合前は驚きの連続だった。日本陸連の伊東短距離部長への第一声は「外国人がいっぱいです!」。アップ場で9秒85を誇る優勝者のM・ロジャーズにあいさつされた。「握手してくれた。それだけでうれしかった。しゃべることはできなかったですが」。10秒01を出した直後にツイッターで「グレートラン」と褒められた。「失礼ないように」と友達と辞書を使い、「Eメールを返そう」という英語テキストを参考に返信したという。

 今後は地元京都でのレースに2週連続で出場するプランだ。10秒01を出した際には両親から「2回、3回出さないと本物じゃない。浮かれずに」とアドバイスされた。「もう1度10秒0台を出して9秒台を狙っていきたい」。9秒96の目標タイムを掲げた上で足元を見つめた。【益田一弘】