<陸上世界選手権>◇第1日◇10日◇モスクワ・ルジニキスタジアム◇男子100メートル予選

 怖いもの知らずの17歳には、ほろ苦の世界デビューとなった。予選2組に出場した桐生祥秀(よしひで、京都・洛南高3年)は、10秒31で4着。自動的に進める3着を逃し、タイムで救われる各組4着以下のタイム上位3番以内にも入れず、今日第2日の準決勝進出を逃した。気持ちを切り替えて最終日(18日)の男子400メートルリレーでメダルを狙う。

 スタートに問題はなかった。14歩目で顔を上げ、最高速度にギアを上げる。中間走も力みない。だが、これが世界の厳しさだ。5レーンの桐生から見て一番右端の9レーンでスメリ(カナダ)が胸を突き出す。わずか100分の1秒差で3着を逃す。既に1組の4着は、桐生の10秒31を上回っていた。そして2組後で、夢は泡と消える。2人が10秒31を超えこの瞬間、世界最年少での準決勝進出の可能性が消えた。

 激闘の高校総体から中8日での大一番。モスクワ到着の7日は空港で自動販売機のオレンジジュースをごくりと飲み干して「うまいです」とうれしそうに笑った。「楽しく走りたい。ワクワクしている。足元をみて自分の走りをしたい」。待ち遠しそうだった。

 4月29日織田記念国際で衝撃の10秒01をたたき出した。そこから高校総体と世界選手権の両にらみの過酷な戦いが始まった。5月31日から64日間で合計31レースを消化。「太ももがパンパンで爆発しそう」と高校総体3冠達成後に話した。それでも「日本代表のユニホームで走ること」を夢に奮起した。

 今大会はドーピング検査で陽性になったタイソン・ゲイ(米国)とアサファ・パウエル(ジャマイカ)がいない。桐生にとっては、同選手権の07年大阪大会で目に姿を焼きつけて、最初に名前を覚えた外国人スプリンターだった。桐生は、2人のドーピング検査陽性について聞かれて「それについてコメントは…」と悲しげな表情を見せていた。

 個人種目は、文字通り、あっという間の10秒あまりで、はかなく終わった。あとは最終日に行われ、第1走者という重責を務める男子400メートルリレーが待っている。世界へ名刺代わりの快走を、そしてメダル獲得へ-。ジェット桐生は、メゲずに挑む。【益田一弘】