<陸上世界選手権>◇第2日◇11日◇モスクワ◇男子100メートル決勝

 男子短距離界のスーパースター、ウサイン・ボルト(26=ジャマイカ)が男子100メートルで2大会ぶりの金メダルを獲得した。準決勝は9秒92で通過。決勝は雷鳴がとどろく向かい風0・3メートルの条件で、今季自己最高の9秒77で快勝。世界選手権のメダルは通算8個目となり、今大会の200メートルと400メートルリレーも表彰台に上がれば伝説のカール・ルイス(米国)と同じ10個目となる。

 ゴールラインをまたいだ瞬間、モスクワの夜空に稲妻が走った。「サンダー」ボルトの覇権奪回を祝福するように、雷鳴がとどろいた。王者はジャマイカの国旗を羽織りレゲエの曲に乗って場内を1周した。「ゴールの時に雷が光ったらしいな。そんなクールな写真があるなら、オレも今すぐ1枚欲しいもんだ」。超人は高笑いして、報道陣に写真をおねだりした。

 悪夢を拭い去った。2年前の大邱大会はまさかのフライングで失格。この日の決勝の反応速度は0秒163と8人中5人目。だが雨でぬれたトラックで加速して、前をいくガトリンを80メートル付近で逆転。「おれは大邱のリベンジに来たわけじゃない。ただ勝つためにきた」。レース直前の雨には、傘を差すポーズで観客を沸かせた。「ロシアの観客はシリアスで笑顔がなかったからな。(ミュージカル映画)『雨に歌えば』じゃなくて、雨に走れば、だったぜ」。大会前にドーピング検査で陽性反応を示した世界歴代2位のゲイ、前世界記録保持者パウエルが欠場する中で、千両役者ぶりが際立った。

 これで世界選手権のメダルは通算8個目(金6、銀2)。200メートルと400メートルリレーで表彰台に立てば、昨年ロンドン五輪で「おれは全然尊敬していない」とけんかを売ったカール・ルイスと同じ10個(金8、銀1、銅1)に到達する。ボルトは、区切りのメダルについて「そんなこと知ったこっちゃない」と切り捨てたが、伝説にまた1歩近づいた。【益田一弘】