<陸上世界選手権>◇最終日◇18日◇モスクワ・ルジニキスタジアム◇男子400メートルリレー決勝

 桐生祥秀(17=京都・洛南高3年)が1走を務める日本は英国の失格により6着も、2大会ぶり7回目の入賞を遂げた。桐生はけがで離脱した山県亮太(21=慶大)に代わる2走藤光謙司(27=ゼンリン)、3走高瀬慧(24=富士通)、アンカー飯塚翔太(22=中大)と力を合わせて決勝に臨み、38秒39だった。桐生は同選手権で日本人初となる高校生入賞を果たした。優勝はジャマイカ、2位米国、3位カナダ。

 「桐生ジェット」が噴射した。400メートルリレーの決勝。勢いよく飛び出した。反応時間は8人中2番目の0秒147。強豪国の1走と遜色ないスピードも、バトンパスで小さなミスが出た。予選で見せた2走藤光との抜群のバトンパスは、タイミングがわずかに狂い、やや詰まったパスになった。4人でつないで、38秒39、英国が失格のため6着となった。満員になった7万人収容のルジニキスタジアムで走りきった。レース前のコールでは胸の「JAPAN」を両手でつまんで、誇らしげにカメラに、堂々とアピールしてみせた。

 「次は自分の個の力を強くしてチームに貢献したい」

 切り込み隊長になった。アンカーの飯塚は「僕らはボロ負けなので」と言った。最終日まで、男子短距離陣は入賞なし。しかも2走山県が離脱していた。4人で「何とかしないといけない」と一致団結した。

 桐生は、予選でも爆発した。日本伝統のアンダーハンドパスで2走藤光と好連係。38秒23での2着通過に貢献。世界選手権で初の高校生入賞者が誕生した。

 6月15日、奈良・鴻ノ池陸上競技場。炎天下で高校総体近畿予選が行われていた。洛南のテントに、帽子をかぶって変装した男の訪問を受けた。山県だった。リレーで1走桐生、2走山県のタッグ結成が内定。極秘で東京から足を運んだ先輩とテント内で話し込んだ。過密日程での体調を心配され、激励もされた。6月と7月には2度のバトン合宿で呼吸を確認。代表の宿舎ではいつも山県と2人部屋。「山県さんにしっかりつなぐことだけを考えたい」。

 しかし山県は、左太もも肉離れで無念の途中帰国。けがのショックで夕食ものどを通らない先輩の姿を間近で見た。14日には日本に帰る山県に「任せてください。(けがの治療を)頑張ってください」と、短い言葉で決意を伝えた。

 0秒01を争う世界で戦う腹はくくった。もう純真無垢(むく)なままの17歳ではない。ある時、夜10時に滋賀・彦根市内の自宅に突然の訪問を受けたことがあった。桐生に対する抜き打ちのドーピング検査だった。突然の訪問。検査に必要な尿が出るまで、約1時間かかった。検査の一団は桐生の自宅で待ち続け、午後11時に出ていった。「100メートルで世界と戦える選手になりたい」という言葉には、生き馬の目を抜く世界に飛び込む覚悟も含んでいる。

 大会の最終種目で、意地を見せた。細やかなバトンワークでスプリント力を結集しての6位入賞だ。「ジェット桐生」が、モスクワの空の下を一気に駆け抜けた。【益田一弘】