2戦連続、世界歴代最高! 男子ショートプログラム(SP)でソチ五輪金メダリストの羽生結弦(21=ANA)が完璧な演技を披露し、110・95点で首位発進した。2週間前のNHK杯での自らの記録(106・33点)を4・62点更新し、再び世界を驚かせた。SPでの2位との19・43点差はGP史上最大で、男子史上初の3連覇に大きく前進した。フリーは12日に行われる。

 その落ち着きは、再びの快挙の予感十分だった。「そうだった、こんなんだったなあ」。耳目から入る情報に記憶を照合させながら、羽生は迫る演技開始を待っていた。

 届いていたのは、1つ前に滑走した宇野の演技映像をスクリーンに放送しながら解説する会場アナウンス。なじみが薄い冬競技のために、得点結果を待つ間、昨年同様に大会側が用意した計らい。他大会では見られない風景を1年ぶりに感じながら、考えていたのは「緊張しているな。この状態でどうすればいいかな」。冷静に心身状態を把握し、演技に落とし込めていけた。それが強さだった。

 冒頭の4回転サルコーは、NHK杯では軸がゆがんだ。大きな加点を取れず、最優先課題として、腰の上下動を抑える意識をたたき込んできた。氷とスケート靴の刃の余計な摩擦音がしない静かな跳躍は、見る者にため息をつかせるような一本に。出来栄え点は満点の3点を稼いだ。

 続く4回転トーループでは踏み切りまでに弧を描きすぎない注意を払い、続けた3回転トーループまで滑らかさが際立つ。再び3点の大技で、曲に乗った。SPの構成はNHK杯と同じだが、そのときにはなかった落ち着きが、ショパンのピアノ曲に共鳴し、緩急も自在。「NHK杯の評価を超えないといけない、もう1回同じ演技をしなくてはいけないという重圧はあったが、感じながらコントロールできた」と、演技後自らに拍手をささげた。

 「同じ演技は1つとしてない」。続けた歴代最高の滑りは、開催地の環境に適応させる繊細さのたまものだ。湿気や音の響きまで敏感に反応し、体を会場に沿わせていく。特に今季からは公式練習の時から氷の温度を測っている。硬さに影響する数値を測ることで、わずかな滑り具合の違いにまで気を配る。

 フィニッシュポーズではNHK杯の鬼の形相から、余裕を感じさせる笑みがのぞいた。予想を超え、さらに上を行き続ける絶対王者。「明後日(のフリー)も自分の中で違うインスピレーションを持ちながら、いいパフォーマンスをしたい」。3連覇の可否よりも、その時その場所でしかない滑りから目が離せない。【阿部健吾】