<東京国際女子マラソン>◇16日◇国立競技場発着

 ニューヒロインが誕生した。マラソン2度目の尾崎好美(27=第一生命)が、2時間23分30秒の日本歴代10位の好タイムで初優勝した。先行した渋井陽子(29)に25キロ地点で1分半以上の差をつけられたが、最後の上り坂で大逆転。自称「カメ」の遅咲きが、09年8月世界選手権(ベルリン)の代表に内定した。日本記録保持者の野口みずき(30)が故障し、北京五輪は代表勢が惨敗。シドニー五輪金メダルの高橋尚子さん(36)が引退した日本女子マラソン界に、新たな光が差し込んだ。

 最後の上り坂で、1人だけ足取りが違う。身長155センチの尾崎が、長い足で上ってきた。楽しみにしていた33キロ地点の第一生命本社前は、3位で通過。「応援がたくさんいたので、体が自然と前に進みました」。35キロから上りが始まり、37・8キロで加納、38・4キロで渋井をとらえた。並ぶ間もなく、一気にトップへ躍り出た。

 小雨の国立競技場は、主役として駆け抜けた。最後の7・195キロは24分27秒。大会史上、昨年の野口に次ぐ歴代2番目に速い「上がりタイム」だった。「粘りには自信があったので、正直、勝てるとは思っていなかったけど、あきらめることはなかったです」。渋井についていけず、7キロすぎに先頭集団から脱落。25キロでは1分32秒差をつけられながら、逆転した。

 競技人生を象徴するレースだった。神奈川・相洋高時代は、全国大会の経験がない。だが、96年アトランタ五輪の有森裕子を見て、マラソンにあこがれた。顧問の石塚先生が、山下監督に頼み込んだことがきっかけで、入社にこぎつけた。00年のことだった。

 コツコツと下地をつくり、入社から8年たった今年3月の名古屋が初マラソン。26歳だった。結果は優勝の中村友梨香(天満屋)と28秒差の2位で、北京五輪代表を逃した。「彼女の方が注目されて、自分は名前も知ってもらえない。やっぱり、自分も目立ちたいので、差を感じました。負けたことは、今日勝てたことにつながりました」。

 第一生命陸上部では、互いの誕生日に寄せ書き入りのバースデーカードを贈り合う。近年山下監督へのカードに、尾崎はこう書き続けた。「カメのような歩みで、本当にとろくてご迷惑をおかけしております」。この日も序盤出遅れたが、最後にはウサギを抜いた。

 来年の世界選手権への切符を、男女通じて最初に手に入れた。「まだはっきりと考えていませんが、もっと速いペースで押していける力が必要。ただ参加するだけでなく、メダルを意識していきたいです」。日本女子マラソン界に、地味ながら、しっかり根の張った花が咲いた。【佐々木一郎】