<レスリング:世界選手権>◇9日◇モスクワ

 女子55キロ級で2大会連続五輪金メダリストの吉田沙保里(27=綜合警備保障)が、五輪を含む世界大会で節目となる10連覇を達成した。順調に勝ち進み、決勝で昨年の59キロ級を制したユリア・ラドケビッチ(アゼルバイジャン)を2-0で下した。世界選手権8連覇で、自分が持つ女子の最多連続記録を更新。12年ロンドン五輪での日本女子初の3連覇にも視界は良好だ。

 誰が相手でも吉田の世界最強の座は揺るがなかった。決勝は昨年の59キロ級の世界女王ラドケビッチ。それでもなんなく退けて、節目の優勝を決めた。「世界10連覇を達成できて気持ちいい」。吉田しか味わえない感覚だった。

 男子グレコローマン130キロ級で「人類最強の男」と評されたアレクサンドル・カレリン氏が持つ世界大会12連覇に近づく偉業を、カレリン氏の母国ロシアで成し遂げた。同氏はかつての絶対王者として「常に成長しようとする吉田の姿勢が素晴らしい。勝ち続けるのに一番必要なことだ」と絶対女王を評した。

 この1年、吉田は取材のたびに「カレリン超えを目指す」と公言してきた。だが本音は少し違う。

 吉田

 そう聞かれるけど、字になりそうなことを言えばいいかなと「カレリン超え」とか言っちゃう。本当は優勝することだけ考えている。119連勝の時もそうだけど、記録は後からついてくるもの。

 レスリング界をけん引するスター選手としてリップサービスの意味も多分に含まれている。根底にあるのは自然体なスタンスだ。

 初めて世界一の座についたのは02年大会の20歳の時。その時から衰えることなく、進化を続けている。今大会に向けては、新兵器を携えた。従来の飛び込み式タックルに加え、組んだ状態から相手を左右に振り、バランスを崩して決める新タックル。「振り子タックル」と名付けられた武器は、吉田の攻撃をさらに多彩にした。女子代表の栄監督は「現役時代の高田さん(裕司)と富山さん(英明)を足して2で割ったようなオールラウンドの選手になった」と2人の男子五輪金メダリストを引き合いに出すほど、強さが増した。

 大会前には映画ベスト・キッドを鑑賞。「最後まであきらめないこと、弱い子でも努力すれば強くなることをあらためて思った」と主人公に感化され、コーンロウのヘアスタイルもマネた。戦いの原点に立ち返っての偉業。「やっぱり攻める選手が強い。これからも攻める姿勢を忘れずにやっていきたい」。原点さえ忘れなければ、日本女子初の五輪3連覇も、前人未到の世界大会V13も、吉田の手中に入るに違いない。