先日、NPBアワーズ2019が行われた。阪神近本光司外野手(25)は、新人ながら盗塁王を獲得。
注目が集まった新人王争いは39票差でヤクルト村上に譲ったが、リーグでは2年ぶりとなる新人特別賞を受賞した。
記者投票で選ばれる最優秀新人賞(新人王)。投票資格は全国の新聞、通信、放送各社に所属して5年以上、プロ野球を担当している記者となっている。今回、セ・リーグの投票総数は300。有効投票総数は299で、得票数は上位から村上168票、近本129票、阪神木浪1票、広島床田1票だった。プロ野球を担当して半年の筆者に、投票資格はなかった。
最後まで票を分け合った上位2人の成績を比べると、甲乙は付けがたい。高卒2年目の19歳村上は高卒2年目以内で歴代最多タイの36本塁打、同最多の96打点(ともにリーグ3位)をマーク。社会人卒1年目の近本は36盗塁で2リーグ分立後、史上2人目の新人盗塁王。18年盗塁王のヤクルト山田から、タイトルを奪取した。打ってもリーグ新人最多安打記録を更新する159安打を放った。
それぞれの武器、持ち味の違いは体格やプレースタイルを見るからに明らか。その中で特に注目された成績は、村上の本塁打数と近本の盗塁数だろう。数字こそ「36」で同じだが、比較するのは容易ではない。では、いくつかの打撃成績を参考に、比較してみる。主に挙げた項目は次の7つ。
★打率
村上2割3分1厘
近本2割7分1厘
★安打
村上118
近本159
★塁打
村上246
近本220
★打点
村上96
近本42
★四死球
村上79
近本37
★出塁率
村上3割3分2厘
近本3割1分3厘
★OPS(出塁率+長打率)
村上8割1分3厘
近本6割8分8厘
ちなみに村上の盗塁数は5、近本の本塁打数は9だった。
打席数は村上593、近本640で大きな違いはない。打率、安打数は近本が上回るも、塁打数になると村上が一気に上回る。出塁率では意外にも、近本より倍以上の四死球を稼いだ村上が上回っていた。「39票」の差。近本が40盗塁、50盗塁…160安打、170安打…と数字を伸ばしていれば、どこで逆転が生じていたか。無冠の村上に対し、近本は1冠をゲットした。ただ、本塁打数と盗塁数の価値を比べるように、2人の評価基準はどこまでいっても交わらないだろう。チーム成績に活躍の場面など、比較・検証すればキリがない。評価する人それぞれの主観にも左右される。
近本はアワーズの取材でこう話した。「冷静に考えたら、僕よりも村上くんの方がはるかにすごい。やっぱり、野球の一番の醍醐味(だいごみ)、ホームランというのが見る人を魅了させる。それが一番面白いなと、単純に思う。そういった意味で僕も、村上くんが新人王を取るなと思っていた」。ライバルの新人王獲得に異論はなし。素直に賛辞を送った。
入団時に盗塁王&新人王の2冠を公言し、ほぼ有言実行に近い成績を残した。「自分のできることは盗塁王をしっかり取ること。そうすれば、僕は新人王になれると思っていた」と、振り返った。ただ、誤算は村上の存在だった。それでも互いを意識し合い、互いの存在を刺激としてきた2人。その争いが、互いのよい結果につながった。近本からすると、村上の存在は「うれしい誤算」だったに違いない。
アワーズの壇上では「本当のところ、新人王じゃなくて残念…」と本音もこぼしたが「自分のやることをしっかりできたので、よかった」と、満面の笑み。充実した表情には、新人ながら1年を戦い抜いたたくましさに満ちていた。【阪神担当 奥田隼人】