宙組注目の若手男役・愛月ひかるが30日に宝塚大劇場で行われる「誰がために鐘は鳴る」の新人公演(東京宝塚劇場は来年1月20日)で初の主役を射止めた。前作「トラファルガー」では、本公演でトップスター大空祐飛の息子役を演じ一躍注目を集めた。同作の新公では準主役、ナポレオン1世を堂々と演じホップ、ステップと準備は万端。タカラヅカを代表する大スター、鳳蘭も現役時代に演じた「誰がために-」で、次世代のスターが生まれるか-。注目度は高まる一方だ。

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 「私、本当に話が下手なんです…。大丈夫でしょうか?」。おどおどしたしぐさや表情とは対照的に173センチという恵まれた体格に落ち着いた雰囲気。最近では本公演でも新人公演でも注目の役を任せられ、ファンの間でもその名は浸透しつつある存在だ。そんな愛月がいよいよ新人公演初主演という大役を射止めた。

 「本当に“驚き”の一言です。でも主演をするということより、尊敬している(トップスターの)大空さんの役をできるんだ、ということが幸せで。もちろん、いろんな不安はありますが、与えていただいた以上、精いっぱいやるしかないと思っています」。折り目正しくもそこには強い決意が漂っていた。

 「新人公演」と一口に言ってもそこには作品によって大きな差がある。「ベルサイユのばら」のようにタカラヅカにとっても財産である作品、「エリザベート」などの新しいミュージカル大作…。今回の「誰がために-」はゲーリー・クーパー&イングリッド・バーグマンの名画であり、タカラヅカの代名詞でもある鳳蘭&遥くららの黄金コンビがヒットさせた大作だ。プレッシャーは何重にものしかかる。

 入団4年目。将来を嘱望されるスター候補生がひしめく期待の93期生だ。雪組で早くも2度、新公主役を果たした彩風咲奈、星組で先月新公初主演を果たした芹香斗亜、同じ宙組で前作で新公主役を果たし、すでにダンスの名手として注目の蒼羽りく…。その切磋琢磨(せっさたくま)は4年後に迫る劇団100周年への原動力でもある。

 母が宝塚歌劇の大ファンだった。「娘が生まれたら、タカラヅカに入って欲しいなあ」。ずっと思っていたという。そんな影響で愛月も2歳のころから観劇を続け、4歳でバレエのレッスンを開始。背が高くなり過ぎたこともあり、愛月本人も自然とタカラヅカの男役を目指すようになった。小学校5年の時には明確に「中学卒業と同時に受験しよう!」と目標を決めていたという。

 ただ、自分へのハードルは最初から高く設定していた。「1回で受からなかったらタカラヅカへの道はあきらめよう」と。周囲は「4回チャンスはあるから」と試験前に慰めてくれたが、本人の意志は固かった。「本当に必要とされていたら…と思ったんです。親にも“1回しか受ける気はないから”ってきっぱり言ってました。逆に言えば、その1回に懸けていたんです」と振り返って語る時でさえ、語気を強めるほど。その潔さは舞台度胸に、自分への厳しさは精神力に直結する。何とも頼もしい。

 目標はタカラヅカの伝統的な男役。「今回のお芝居って、まさにそんな役だと思うんです。生意気ですけど“ザ・タカラヅカ”みたいにできたら」。自分をタカラヅカに導いてくれた母は32年前の初演で感動した。そんな作品で夢の大きな1歩をかなえようとする娘…。さまざまなことがシンクロナイズする今回の新公に注目度は高まるばかりだ。

 

 ◆「誰がために鐘は鳴る」 舞台は1936年スペイン。フランコ将軍率いるファシスト軍と共和政府軍が激しい戦いを繰り広げていた。共和政府軍を支援する米の大学講師ジョーダン(愛月、本役=大空祐飛)は国際義勇団に参加した。スペイン入りした彼は「4日後、戦略上重要な鉄橋を爆破せよ」との任務を受けて山中に入り、ゲリラの協力を求める。そんな中、ファシストに両親を殺され、つらい境遇にありながら懸命に生きるマリア(すみれ乃麗、本役=野々すみ花)に出会う。たちまちお互いに強くひかれ合う2人。さまざまな困難を乗り越え、4日後に鉄橋爆破を成功させたジョーダンだったが、敵の後続部隊が接近。自らの足に銃弾を受ける…。宝塚大劇場では12日~12月13日、東京公演は来年1月1日~30日。

 

 ☆愛月(あいづき)ひかる 8月23日生まれ。千葉県市川市出身。私立日出学園中を経て07年「シークレット・ハンター」で初舞台。身長173センチ。愛称「愛ちゃん」「あいあい」。