【巨人週間①雀鬼と岡本和真】力の抜けた「はな垂れ小僧」だからいい…桜井章一は見抜いた

ウィークデー通しの巨人特集。第1弾は、2年前のリーグ優勝時に物議を醸した、鋭利なエッジの立った企画です。マージャン界の生きる伝説に、岡本和真の印象と「打つ」の極意を聞く…面識がないからこそ、忖度なしの洞察が際立ちます。(2020年10月31日掲載。所属、年齢などは当時)

傑作選

栗田尚樹

打つことを生業(なりわい)とする男がいる。巨人を連覇に導いた岡本和真内野手(24)は「#神様仏様岡本様」と崇拝され、マージャン界で20年間無敗を誇った桜井章一(77)は「雀鬼」と恐れられた。白球を打つ若者、道を究めた鬼。両極端の世界に生きる勝負師は、互いをどう見る。2人にとって「打つ」とは―。相まみえぬ存在だからこその答え、通ずる感覚がそこにはあった。

岡本の写真を手に。撮影当時77歳とは思えない気迫

岡本の写真を手に。撮影当時77歳とは思えない気迫

◆桜井章一(さくらい・しょういち) 1943年(昭18)東京・下北沢生まれ。大学時代にマージャンを始める。「代打ち」として20年間無敗。「雀鬼」の異名をとる。引退後は「雀鬼流麻雀道場 牌の音」を開く。モデルとなった映画、漫画等は数知れず。

★藤井聡太との共通点

「彼、名前なんて言うの?」。雀卓に並ぶ男の写真を見つめ、雀鬼は言った。「昔、はな垂れ小僧って言われていたんじゃない?」。岡本が幼少期、両親から付けられたあだ名を言い当てた。

「口元に力みが入ってない。目も力みがない。鼻は開いちゃってるし。ポカっとしているほうがいいんだよね」と柔を見た。「将棋の藤井(聡太)君もそうじゃない。りりしいというか、勝負師の顔なんかしていない」。紫煙をくゆらす77歳。鬼と恐れられた男の横顔も、どこか柔らかい。

20年間無敗。「1回負けたら、死のうと思ってたのよ。本当に。あるいは自分を消しちゃおうと。姿を。いられないもん。歌舞伎町に」と笑った。そこにあったのは生と死だった。

★不調こそ実力

「不調こそ実力」と言う。「(勝負の日が決まると)その間は寝ないし、食べない。人間には性欲、睡眠欲、食欲がある。自然と、それすら設けてはいけない気持ちになった。それやれば勝てるっていうわけじゃないけど」。常人には理解できない世界がある。「スランプって感じたことはなかった」と勝ち続けた。

鬼は運をも味方にした。

「3、4年前のシュノーケリング。波で上に数メートル飛ばされて、海の中にのみ込まれたんだよ。体の上に岩が乗って、腕も挟まれた。2つ目の波で頭に岩がぶつかりそうなわけ。そこに死が確実にあったんだけど、パニックにはならなかった。意外と冷静なんだよ。そしたらさ、3番目の波が全ての岩をどかしたんだよ」

自然を静観し、勝敗の先を見た。

「最初は勝つことに喜びを感じていた。でも、それは何年か。勝つと、負ける人がいる。その人の背景が見えてくる。勝つって空しいな、と。敗北はみっともねえ。情けない。そういうもの。普通は負けてから強くなるとか言うけど。俺はマージャンの打ち方も知らず、後ろから見て、やって、その日から負けていない」

インローを左手1本で左翼席中段へ。優勝をたぐり寄せる28号2ラン=2020年10月30日

インローを左手1本で左翼席中段へ。優勝をたぐり寄せる28号2ラン=2020年10月30日

★岡本との共通点 重圧と無縁

岡本に聞いた。雀鬼の存在を伝えると「そんなすごい方がいるんですね。恥ずかしながら、知りませんでした」。

両極端の世界に生きる異能者たち。通ずるモノもある。鬼は「どうして緊張したり、プレッシャーって感じるんだろうね」。21歳11カ月から巨人4番を張る男も「プレッシャーとか重圧とか言われますけど、どういうものか、よく分からない。昔から感じたことがない」。本能で圧を排し、打ち続ける。

一部は期待を込め、岡本を「神」と崇拝し始めた。だが「僕が神様なわけないでしょ」と笑う。

「まだまだっす。3年くらいしか打てていない。続けてこそ価値があると思っているので。続けられなかったら意味ない。一流の人って、どこの世界でも結果を残し続けてきたからこそ、認められてるわけで。僕も1年だけとか言われるのは嫌なんで」

24歳のリアルがそこにある。「勝ったらうれしいし、負けたら悔しい。成功して学ぶことも負けて学ぶことも、どちらも大事」。

勝敗の先を見るのは、まだ先の話。ただ、景色が変わり始めた。2年前。本塁打の新たな世界に触れた。

★力任せが通る…低レベル

「軽く振ればいいんだって。ヘッドを返すのではなく、出す。あ、これやなってのありました」

神域の入り口に立った若者、道を究めた鬼。2人にとって「打つ」とは―。

雀鬼 人の感覚として、つかむっていうのがあるわな。次は触る。その次の感覚の世界に行くっていうことは、牌にふれるということ。

 牌 を手に笑顔の桜井氏

牌 を手に笑顔の桜井氏

そう言うと、中指の先端にふれただけで、牌を持ち上げた。そして続けた。

「俺にとっては譲れない領域かな。いろんなものを頂いたし、学んだ。マージャンを打つ4人は敵ではなく仲間とか。社会では上流がきれいで下流に行けば汚くなる。川と同じように。でも俺たちのやるマージャンは、てめえがきれいな水にしてこの人にきれいな水を流してやる。循環させようって」

岡本にとって打つとは―。数秒間、沈黙した。

岡本 難しいですね。まだ分からないところのものですかね。いつか、そう。引退した時とかに、ようやく答えられるのかもしれないです。

打ち続けるしか、入り口から先へは進めない。

★感覚の世界

鬼はヒントを与えた。「力任せはダメ。それで通ってしまうレベルはかなり低い。何もないほうがいい。だからはな垂れ小僧のほうがいいんだよ。テクニックではなく、感覚の世界があるってことを出来たら、もっともっとすごい選手になれる」。

全知全能の領域。感覚の世界へ踏み出す。何年後、何十年後。岡本和真は、「鬼神」へと化ける。

◆鬼が鬼を呼ぶ 身長は180センチを優に超える。細身で背筋がピンと伸びた紳士。雀鬼の周りには、鬼才の「勝負師」が集う。ビートたけし、将棋・羽生善治、ボクシング村田諒太…。各界の異能者と交流を持つ。

過去に村田と対談した。「(村田に)構えをやってみろって。ジャブからフックに回った時に肘が、がら空きだよって。俺素人なのによ、あいつ世界チャンピオンじゃないすか。勝つ論理とかじゃなくて、体から教えた。見ただけで俺には分かる部分がある。直してやったらすげえ強くなっちゃって。来た時よりパンチ力も2階級くらい上がっちゃって。今のお前だったら誰にでも勝てるんじゃねえのって」。村田は「何もかも不思議なことだらけ」と驚いていたという。

人の心を打つ世界のキタノ、究極の一手を指し、勝利の駒を打つ棋士、他を圧倒するパンチを打つ金メダリスト。鬼が鬼を呼ぶ。