【ヤクルト週間③山田哲人のトス打撃】トリプルスリー×3の胎動 果てしなく地道かつ繊細な2014年の日々

大打者となった今では、貴重な取材です。ヤクルトの宝、山田哲人内野手の打撃を支える、日々の練習をルポしています。日本球界で最も美しいスイングは、1日にして成らず。(2014年7月29日掲載。所属、年齢などは当時。文中敬称略)

傑作選

浜本卓也

暑い夏、いかがお過ごしですか。ヤクルト担当記者にとって、5連敗中、借金19、5位と5・5ゲーム差の最下位という低迷ぶりは暑苦しさに拍車をかけている。だが、暑さを吹き飛ばす、新鮮で明るい話題だってある。山田哲人内野手(22)はリーグ3位の打率3割3分1厘と、セ・リーグ最年少首位打者も十分狙える。今日だけは暗い話題はやめにして、山田の急成長の理由に迫りたい。

★早出特打をフルマーク

5連敗を喫した翌28日、ヤクルト衣笠球団社長が「何か明るい話題はないですか?」と苦笑いで尋ねてきた。

担当球団が低迷すると、選手だけではなく球団事務所でフロント陣を取材することが増える。まさに今がそうだ。

返事に窮したが、2日前に見た光景を思い出した。

26日DeNA戦前の午後1時半、神宮室内練習場で山田を追った。

急成長の理由を聞いた際、熟考の末に「トス打撃が大きいと思う」と言っていた。

たかがと言っては失礼だが、トス打撃で何が変わるのか。この日だけは山田の早出特打に集中しようと決めた。

◆トス打撃斜め前方からトスしてもらった球を、ネットに向かって打ち返す練習法。スイングフォーム、球を打つ感覚、ミートするタイミングを確認することが主な狙い。ウオーミングアップを兼ね、打撃練習の前に行うことが多い。投げる球の位置を変えることで、コース別のバットコントロールを確認する場合もある。「ティー打撃」という人も多いが、正確には主にスタンドに球を置いて行う方法の名称だ。

バットを握り、右斜め前に立った杉村コーチが下から投げる球を普通に打って練習開始…と思いきや、違った。

体の正面で「X」を作るように左右から振り下ろし出した(①、冒頭の写真)。

続いて正面の球をトップの位置から最短距離で打つと(➁)、逆打ち(③)高低(④⑤)変化球打ち(⑥)クイック対策(⑦)と続けた。

➁腰を落とし、正面からの球を打つ

➁腰を落とし、正面からの球を打つ

③➁と同じ球を逆方向に

③➁と同じ球を逆方向に

④低め打ち

④低め打ち

⑤高め打ち

⑤高め打ち

⑥一本足打法

⑥一本足打法

⑦5連打

⑦5連打

⑧ではワンバン打ちで落ちる球対策をし、⑨では小さく腕をたたんで内角直球のさばき方を染み込ませていた。

⑧ワンバウンド打ち

⑧ワンバウンド打ち

⑨バランスボールに乗り、真横から速球打ち

⑨バランスボールに乗り、真横から速球打ち

約20分間、11種類のトス打撃を行うと、「しんど~」と汗まみれで座り込んだ。

⑩遠めから打って最終確認

⑩遠めから打って最終確認

⑪左打ちも

⑪左打ちも

★143キロ バレに次ぐスイングスピード

練習前に、わざわざバラエティーに富んだトス打撃を行うのはなぜ? 杉村打撃コーチは解説する。

「1試合やれば、いろんな球種を打ちにいくので、フォームが崩れている。次の試合の打撃練習までにリセットし、正しいスイングに戻すのが大前提だからね」

今季の目標は「定位置奪取」。

だからこそ結果を出したい気持ちが強すぎて、ポイントが前になる傾向がある。目指すのは、好不調の波が少ない打者だ。

球宴に出場し、楽天・則本から本塁打=2014年7月19日

球宴に出場し、楽天・則本から本塁打=2014年7月19日

そのためにも、①と➁でいつも同じスイング軌道に戻してから技術習得に励む。山田も「これで打撃練習に納得のいくスイングで入れる」と実感している。

さらに「180安打で3割」を達成するには、あらゆる球種への対応力が必要だ。

だからこそ課題の内角打ちと右打ちをマスターする必要があった。

「去年より振る量が増えているし、正直きつい。自分は飽き性だし、やることも同じなので…」と苦笑いしながらも続ける理由がここにある。

成果は如実に出ている。

「今季1番」と自画自賛する、5月24日西武戦で岸から放った7号ソロは、内角直球を仕留めたもの。2ストライク後の打率は、昨季の2割5分6厘から3割8厘に上昇した。

西武・岸から放った一発は「今季1番」=2014年5月24日

西武・岸から放った一発は「今季1番」=2014年5月24日

「トスの打ち方を無意識にできているときがあるんです」と言い、真中打撃コーチは「質のいい練習を続けてきた証拠だね」と目尻を下げた。

山田がトス打撃をやめない理由が、もう1つある。

「去年は『振れてないな』って感じる時があったけど、今年は『振れてる』って時があるんです」。

スイングスピードを計測すると、2月のキャンプ時と同じ143キロ。球団ではバレンティンに次ぐ2位の記録だ。

定期的に計測しているヤクルトの2軍選手は、この時期は平均4~5キロダウンしている。

真中打撃コーチは「レギュラーで体がきつい中、これを毎日続けるのは大変なんだ。技術だけでなく振る力もスピードもついているはずだよ」と説明。

測定器を扱うSSK担当者も「振り込んで仕上がっているキャンプ時と同じ数値が出るのはすごい。スピードも体力もついている証拠」と驚いた。

★193安打、29本塁打、打率.324

ユニホームを脱げばノリのいい関西人。

試合に負けた直後のシャワー室で水を掛け合ってはしゃいでしまい、先輩からカミナリを落とされたこともある。

そんな天真らんまんな性格だが、こと野球になると「今の成績はできすぎ。できるだけ落ちないように、1年間続けたい」と決意は固い。

強く振れる。安打を打てる。

野球人共通の純粋な喜びは、反復練習のたまものだと実感しているから。

8月はリーグトップ41安打を放ち、初の月間MVP。会見での笑顔が若々しい=2014年9月5日

8月はリーグトップ41安打を放ち、初の月間MVP。会見での笑顔が若々しい=2014年9月5日

交流戦首位打者、球宴出場に続き、リーグ史上最年少首位打者も見えてきた。

杉村コーチは「山田と同じ練習をしたいって選手が出てきているんだよ」と、うれしそうに明かした。山田のひたむきな姿が、最下位に沈むチームに好影響を及ぼし始めている。

衣笠社長、ヤクルトにも光明はありました。次は球団発の明るい話題をぜひ、お願いします!