ネトフリ沼へようこそ。「愛の不時着」初見はもちろん何回見ても面白いのはナゼなんだ!を“ダメ推し”解説

家にいることが増え、ネトフリの〝沼〟から抜けられなくなった方も多いかと思います。日刊スポーツのドラマ好き過ぎ記者もその1人。「梅ちゃんねるNetflix版」最初の題材はこの作品しかありません。そうです。「愛の不時着」です。

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梅田恵子


世界的大ヒットドラマ「愛の不時着」で主人公カップルを演じた韓国の俳優ヒョンビン(39)とソン・イェジン(40)が先月、結婚を発表しました。作品ファンの1人としては、とびきりの番外エピローグが追加されたようで心躍ります。20年2月にNetflixで独占配信され世界中で大ブームとなり、丸2年たった今も日本のトップ10に入り続けるプラチナコンテンツ。息の長い人気に驚かされます。この作品がなぜこんなに人気なのか。挙げればキリがないですが、ざっくり言えば、今の日本の連ドラでは見られないものがすべて詰まっている、という点に尽きると思います。

ここが不時着地点です。Netflixシリーズ「愛の不時着」独占配信中

ここが不時着地点です。Netflixシリーズ「愛の不時着」独占配信中

★スケールの大きさ★

まずは、物語のスケールの大きさですよね。2人が演じたのは、パラグライダー中に竜巻に巻き込まれて北朝鮮に不時着した韓国の財閥令嬢ユン・セリと、それを発見した北朝鮮将校リ・ジョンヒョク。軍事境界線を越えた禁断のラブストーリーというだけでも壮大なスケールですが、この作品はスイスも重要な舞台となっています。

不時着する7年前、2人はスイスで遭遇していたという数奇な運命が物語の伏線になっていて、ここでの小さな波紋が後に登場人物たちの人生を大きく動かしていきます。アルプス山脈やジーグリスヴィル橋の絶景、ブリエンツ湖のもの悲しい美しさ。韓国ドラマらしいダイナミックな映像美を通し、ただの特権階級ではない2人の人生背景がき生きと映像化されていきます。

エンタメが国策のひとつであり、海外展開が常に視野にある韓国ドラマは海外ロケが大好き。「トッケビ」はカナダ、「太陽の末裔」の“ウルク”はギリシァ、「青い海の伝説」はスペイン、「バガボンド」はモロッコなど、人気大作は海外で大規模なロケを行っています。コロナ禍でイタリアロケができなかった「ヴィンチェンツォ」は、街並みからぶどう畑の大火災シーンまで最先端CGで再現し、世界の度肝を抜いています。

バブル期は日本のドラマも海外ロケは珍しくありませんでしたが、予算削減に疲弊して久しい中、最近は都内ロケですら削られ気味。半径5メートルの人間模様も身近でいいけれど、国境をまたいでロマンスとアクションが展開する「不時着」を見ると、単純に圧倒されるのです。

ヒョンビンは北朝鮮軍将校にして中央幹部の息子。Netflixシリーズ「愛の不時着」独占配信中

ヒョンビンは北朝鮮軍将校にして中央幹部の息子。Netflixシリーズ「愛の不時着」独占配信中

★資金力★

こんな大規模な撮影が可能なのは、資金力あってのこと。「不時着」の制作費は非公開ですが、同規模のほかのドラマの現地報道を見聞きする限り、ざっくり1話2億円前後が相場のようです。16話なら32億円。日本の連ドラは主要枠でだいたい1話3000万円前後とされ、大きな差があります。

なぜこんな開きがあるかと言えば、ドラマ制作における日韓の商慣習の違いが挙げられます。

韓国では、制作会社の力がとても大きいです。世界で戦える企画を立て、Netflixなどの大手配信サービスに持ち込んで莫大(ばくだい)な予算を調達し、作品の著作権も自ら管理するのが一般的。テレビ局とその受注先、という日本の力関係とは大きく異なります。「不時着」のように、丸2年もベスト10に入り続ければその都度もうけがあり、次の作品に予算を投じることができます。

一方の日本は、テレビ局がプラットホームも制作も著作権も握り、スポンサーの広告収入で利益を回収する古典的かつ内向きなスタイル。テレビ広告費がネット広告費に抜かれる中、予算の先細りでますます目先の視聴率やスポンサーの意向に気を取られ、本当に作りたいものに向き合えているのか心細いです。

「不時着」の初回視聴率(19年12月14日、韓国tvN)はわずか6・1%。それでも世界配信を見込んだ利益は確保してあり、制作会社「スタジオドラゴン」は迷うことなく予算を投じています。北朝鮮の村1個をセットで再現するスケールの大きな物語で徐々に数字を上げ、最終回に21・7%を記録。その1週間後に世界配信され、世界戦略の成功モデルとなりました。

ソン・イェジン。韓国のやりて社長役。この表情はまだ恋に落ちる前。Netflix「愛の不時着」独占配信中

ソン・イェジン。韓国のやりて社長役。この表情はまだ恋に落ちる前。Netflix「愛の不時着」独占配信中

★脚本力★

刑事、医師、弁護士というドラマ界3大お仕事を中心に1話完結ベースが多い日本の連ドラと違い、続きが気になって仕方がないという連続ドラマ本来の魅力に徹しているのも韓国ドラマの特徴で、「不時着」はその代表格です。

ベタベタに甘いタイトルですが、内容はコメディーとシリアスのバランスが絶妙なラブコメです。

事故って不時着するセリもセリですが、非武装地帯に落ちた彼女をミスの連続で北朝鮮領土に侵入させてしまったジョンヒョクの部隊も大失態。当局にバレたら困る者同士、しばらくかくまって共同生活というコミカルな導入がうまいんですよね。主人公が軍人なので銃やアクションシーンも満載。ジョンヒョクの部下たちとの友情や、2人の恋のとばっちりを受けるサブカップルのストーリーなど、壮大でスピード感のある展開に90分×16話などあっという間です。

脚本は、韓国屈指のヒットメーカー、パク・ジウン。宇宙人とトップ女優の恋を描いた「星から来たあなた」、人魚と詐欺師の恋を描いた「青い海の伝説」など、出会うはずのない、あり得ない設定で珠玉の物語を作り出す売れっ子です。設定こそ荒唐無稽ですが、この人が描いてきたのは、何でもない日常の尊さと、人は変われるというエール。「不時着」も、韓国と北朝鮮という出会うはずのない2人を通した人間賛歌で、究極のパク・ジウン作品といえるかもしれません。

お似合いの2人ですが、本当に結婚してしまいました。Netflixシリーズ「愛の不時着」独占配信中

お似合いの2人ですが、本当に結婚してしまいました。Netflixシリーズ「愛の不時着」独占配信中

★演技力★

そして、制作陣が託したキャラクターに命を吹き込む俳優の力です。2人とも、競争の激しい韓国芸能界でトップ集団を走り続けてきた演技力の持ち主。ヒョンビンは韓国の中央大演劇映画科大学院に在籍中、ソン・イェジンはソウル芸術大映画科卒。演技の基礎をみっちり学んだ表現者でもあります。

2人に限らず、韓国の俳優女優は、芸術高校や大学の映画演劇学科などで演技の基礎を学んでいるケースがほとんどです。

あらゆる大学に関連学科があるお国柄。そこで発声法、キャラクターの把握、映画制作などあらゆるメソッドを学び、スターを目指します。街でスカウトしてすぐ俳優デビュー、という日本式の才能発掘法もひとつの方法ですが、人気作のメイキングなどで、本番と同時に自在に泣く韓国俳優のオンオフのすごさを目の当たりにすると、ちょっと圧倒されます。

「不時着」も、主演カップル、サブカップルをはじめ、登場人物の隅々までそんなキャスティング。役を正確に理解し、監督の求めるものをきちんと表現し、キャラクターの魅力を生き生きと立ち上げた結果、受け手をぐいぐい物語の世界へ。1話の非武装地帯を爆走するセリの形相から、最終話の涙の爆走まで、確かな名シーンの数々を見届けるうち、決して荒唐無稽ではない、すてきなせりふや生きざまがいくつも胸に残るのです。

いろいろ書いているうちに、また1話から見たくなってきました。また寝不足になりそうで、それがこの作品の怖いところであり、幸せなところです。

ソン・イェジン。忘れがたいスイスの音楽会。Netflixシリーズ「愛の不時着」独占配信中

ソン・イェジン。忘れがたいスイスの音楽会。Netflixシリーズ「愛の不時着」独占配信中

ヒョンビョン。軍服でなくてもりりしい。Netflixシリーズ「愛の不時着」独占配信中

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ここは南北軍事境界線。Netflixシリーズ「愛の不時着」独占配信中

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スイスロケがこれまた雄大。そして感涙。Netflixシリーズ「愛の不時着」独占配信中

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◆梅田恵子(うめだ・けいこ) 文化社会部記者。11年から芸能コラム「梅ちゃんねる」連載中。昭和からのドラマおたくで、毎クールの連ドラを勝手な好みで採点する「勝手にドラマ評」も12年目。Netflixは16年から視聴。業務の一環のはずがそのまま沼。韓国ドラマ大好き。好きなジャンルはSF、サスペンス、ラブコメ、Kゾンビ。ギャラクシー賞テレビ部門選奨委員。