ひなたの道で、サッチモ、美空ひばり/「カムカムエヴリバディ」ヒロイン3世代年表を見ながら思う

最終盤を迎えている朝ドラ「カムカムエヴリバディ」。ルイ・アームストロングのトランペットがドラマに通底する旋律だ。「ヒロイン3世代ドラマ&世相年表」を見ながら、ベテラン記者があれこれ思い出した。

ストーリーズ

文・相原斎、グラフィック・山本遥香


1953年12月、ルイ・アームストロング(中央)と彼の楽団が来日し、本場のジャズを披露した

1953年12月、ルイ・アームストロング(中央)と彼の楽団が来日し、本場のジャズを披露した

★On the Sunny Side of Street★

3代のヒロインでリレーするNHKテレビ小説「カムカムエヴリバディ」の背景には、一貫してサッチモことトランペット奏者ルイ・アームストロングの存在がある。

岡山編では安子(上白石萌音)が後の夫・稔の影響でジャズ喫茶に通うようになり、サッチモの「ひなたの道で=On the Sunny Side of Street」を聴く。2人の間に生まれた娘はルイにあやかって「るい」と名付けられる。成人したるい(深津絵里)は大阪に移り、安子の孫に当たる長女ひなた(川栄李奈)を生む。その名もサッチモの曲名に由来している。

1953年、初の日本公演で来日したルイ・アームストロングと江利チエミ

1953年、初の日本公演で来日したルイ・アームストロングと江利チエミ

少年時代に発砲事件を起こし、少年院でトランペットよりややこぶりなコルネットを習得したサッチモは10代後半から本格的に音楽活動を始めている。稔と安子が通ったジャズ喫茶の蓄音機から流れる「ひなたの道で」は年代的に彼が30代の頃の録音のはずだが、演奏や心に染みる独特の節回しにはすでに貫禄がある。

るいの夫となるジョー(オダギリジョー)は、トランペット奏者として活動していた大阪時代、コンテストの曲目に「ひなたの道で」を選ぶ。るいが少女時代に母と訳した「心配事は玄関に置いて、ひなたの道へと歩きだそう」という歌詞と重なり、ジョーが吹くどこか温かい演奏にはジーンとさせられた。この頃には実際のサッチモは円熟の60代を迎えていて、まさしくジョーがそうであったように世界中からリスペクトされる存在になっている。

ジョーをスカウトする芸能プロの社長役で、内田裕也さんらとともに関西のジャズ喫茶のライブから活動を始めた佐川満男(82)が登場したのも象徴的なキャスティングだったと思う。ジャズが芸能界の王道だった時代で、芸能プロの親玉とジャズマンの距離は近かった。私が記者活動を始めた80年代になっても、渡辺プロ創業者の渡辺晋さん(87年、69歳没)やサンミュージック創業者の相沢秀禎さん(13年、83歳没)のようなバンドマン出身の社長さんが何人かいた。

日本ジャス界を牽引してきた渡辺貞夫。「カムカム」でも世界に進出するホープとして名前だけ登場する。

日本ジャス界を牽引してきた渡辺貞夫。「カムカム」でも世界に進出するホープとして名前だけ登場する。

★「ナベサダ」の名前が出た★

ジョーや仲間のセリフにはナベサダこと渡辺貞夫(89)の名前も挙がる。「アメリカ行くんだって」という劇中のセリフ通り、ナベサダは「先駆者」として62年に名門バークリー音楽院に留学している。私が大学生だった78年にはアルバム「カリフォルニア・シャワー」が「流行歌並み」にヒット。時代を映す存在の1人だっただけに、これも感慨深いエピソードだ。

精神的な問題からトランペットを吹けなくなったジョーとともにるいが京都に移ったのは64年。翌年のひなたの出産の後、75年まではドラマの空白となっている。サッチモが69歳で亡くなったのは71年。ジョーとるいは「サッチモの死」にどう反応したのか。ドラマでは触れられなかっただけにちょっとだけ気になっている。

サッチモを直接取材したことはもちろんないのだが、取材ノートには何度か彼の名前を書いたことがある。「美空ひばり」(朝日文庫)の著者として知られたルポライターの竹中労さんから、ひばりとの秘話を聞いたこともあった。ジャズを歌っても抜群にうまかったひばりの声をレコードで聴いたサッチモは、64年の来日時に対面を希望。実はひばりもサッチモの哀歌を自らのルーツである横浜「屋根なし市場」の人情に重ねて聴いていたという。

竹中さんはクリスマスイブに会食を設定するが、ひばりの弟が事件を起こして流れてしまう。二人の「巨人」がもし顔を合わせれば、そこではどんなことが話されたのだろうか。

サッチモの曲に思い出を重ねる人は少なくないだろうが、私も劇中に「ひなたの道」が流れるたびに思い出すことが少なくない。

【カムカム3ヒロインと同い年の有名人(敬称略)】

■初代ヒロイン・橘→雉真安子(上白石萌音)、1925年(大14)3月22日生まれ。

25年生まれ(2022年満97歳)の主な著名人=3代目桂米朝(落語家、人間国宝・故人)、杉下茂(元プロ野球選手)、栃錦(第44代横綱・故人)、永井路子(小説家)、野中広務(政治家・故人)、橋田寿賀子(脚本家・故人)、初代林家三平(落語家・故人)、ポール・ニューマン(俳優・故人)、マーガレット・サッチャー(英国首相・故人)、三島由紀夫(小説家・故人)」。21年4月に亡くなった橋田寿賀子は、劇中にも登場した「おしん(83年)」「おんなは度胸(92年)」と、「春よ、来い(94年)」の3作で朝ドラの脚本を担当した。

■2代目ヒロイン・雉真→大月るい(深津絵里)、1944年(昭19)9月14日生まれ。

44年生まれ(2022年満78歳)の主な著名人=久米宏(アナウンサー)、ジミー・ペイジ(ギタリスト)、子門真人(元歌手)、ジョージ・ルーカス(映画監督)、杉良太郎(俳優)、高橋英樹(俳優)、田中真紀子(政治家)、2代目中村吉右衛門(俳優・故人)、山本寛斎(デザイナー・故人)、横山やすし(漫才師・故人)。回転焼き「大月」の売り上げが落ちた原因となった「およげ!たいやきくん」の大流行。これを歌った”商売敵”子門真人とは同い年。

■3代目ヒロイン・大月ひなた(川栄李奈)、1965年(昭40)4月4日生まれ。

65年生まれ(2022年満57歳)の主な著名人=尾崎豊(歌手・故人)、さくらももこ(漫画家・故人)、沢口靖子(女優)、中森明菜(歌手)、野口聡一(宇宙飛行士)、古田敦也(元プロ野球選手)、本木雅弘(俳優)、三木谷浩史(楽天会長)、YOSHIKI(ミュージシャン)、吉田美和(歌手)、ロバート・ダウニーJr(俳優)。新津ちせが演じた10歳のひなたの衣装が「ちびまる子ちゃんみたい」とネットで話題になったが、作者のさくらももこと実際に同い年だった。映画「アイアンマン」主演のロバート・ダウニーJrは、ひなたと全く同じ65年4月4日生まれ。

「カムカムエヴリバディ」3ヒロインと同い年の主な著名人。上段1925年、中段1944年、下段1965年生まれ

「カムカムエヴリバディ」3ヒロインと同い年の主な著名人。上段1925年、中段1944年、下段1965年生まれ