白血病から復帰した池江璃花子(20=ルネサンス)が、驚異の8日間を4冠で締めくくった。

非五輪種目50メートルバタフライで予選26秒36、決勝25秒56で優勝。その1時間後、今大会11レース目の50メートル自由形を24秒84で制した。100メートルバタフライ、同自由形と合わせて出場4種目V。白血病から2年2カ月で日本のトップに返り咲いて、リレー代表で東京五輪にも内定。大会を終えて五輪代表は、すでに代表権を持つ瀬戸大也(26)も含め29人となった。

   ◇   ◇   ◇

池江は、入場口を出て、右拳をぐっと突き出した。50メートルバタフライ優勝からわずか1時間後の50メートル自由形決勝。「レース直前まで勝てるか、勝てないか、不安だった。『やってやるぞ』という気持ちでやった」。復帰後に始めたしぐさで、気持ちを奮い立たせた。

先行する大本、五十嵐の間を割る。ラスト15メートルで抜け出して24秒84で4冠。8日間で11レースを終えて「日本で負けるのは今年で最後にしようと思ったが、いい成績だった。いずれは(自分の)日本記録も狙っていけるようになるんじゃないかな」と声を弾ませた。

19年12月の退院後。かつての練習拠点近く、東京・亀戸の香取神社を訪れた。リオ五輪前も必勝祈願した「スポーツ振興の神」。本殿に絵馬掛けがあった。「池江璃花子選手 病気平癒祈願成就」。100枚以上も回復、復活を願う絵馬があった。「もう1度笑顔でスタートラインに立てますように」「神様 池江様を救ってください」「必ず治る 再びトビウオに」。涙があふれ視界がにじんだ。

絵馬掛けを設置した宮司の香取邦彦さん(73)は「池江選手は入院した時に『神様は乗り越えられない試練は与えない』とコメントされていた。でも、そんなこと神主でもなかなか言えない。そんな強い気持ちの子は絶対に戻ってくると思っていた」と説明した。

何度聞いても、切なくなる。東京五輪のヒロイン候補が19年2月、白血病。同5月に公式HP開設。応援ボタンが設置された。クリックのたびにカウントされる。関係者は「1日10回でも押してほしいんです。璃花子の励みになるんです」と訴えた。50万、100万の節目を祝った。その数は今、179万を超える。無数の声に支えられていた。

疲労もあって、50メートル自由形棄権も頭に浮かんだが「いけます」と直訴した。西崎コーチは「東京を目指そう、という会話は1度もなかった」。24年パリ五輪から前倒しでつかんだ五輪切符。池江は「決まったからには自分の使命を果たさなきゃいけない。リレーがメインになると思うが、チームに貢献したい」。8日間を走り抜けて、夏の東京を見据えた。【益田一弘】

○…日本代表の平井ヘッドコーチが大会を総括した。瀬戸を含めて29人の代表内定が出て「リオ五輪とほぼレベルも人数も同じぐらいかと思う。満足できるものだった」。4冠の池江には「この8日間で表情も体つきも見違えた。以前のアスリートのような雰囲気が戻っている」とした。佐藤、井狩、本多ら初代表もいるだけに「入江のようなベテラン、瀬戸、萩野の力も借りて、のびのびと力を発揮できるチームをつくりたい」。

◆代表メモ 五輪初出場は井狩、大橋、谷川、佐藤、小堀、難波実、松元、柳本、高橋、小西、青木、本多、関、難波暉、武良、大本、砂間、水沼、川本の19人。年長は31歳入江、年少は高3の17歳谷川と柳本。個人での内定がでなかった種目もある。過去の五輪、世界選手権では、リレー要員が単体種目に出場することがあった。