「1-0で勝つよりも5-4で勝つ方を好む」
これはヨハン・クライフの哲学を表すフレーズだ。今季、新体制となったバルセロナはかつて同クラブを指揮した偉大な先人の言葉を体現するかのようなプレーを披露し、2季ぶり28回目のスペインリーグ優勝を見事に成し遂げた。
コロナ禍以降、極度の財政難に陥っているバルセロナは、サラリーキャップ(選手の契約年数に合わせて分割された移籍金や選手年俸などの限度額)の影響を大きく受け、長きに渡り望むような補強ができていない。さらに審判買収疑惑の「ネグレイラ事件」など、ピッチ内外で多くの問題を抱え、昨季は無冠に終わりシャビ監督を解任した。
■ヤマルのシーズン
今季の補強はダニ・オルモ、パウ・ビクトル、シュチェスニーの3人だけだが、新監督にドイツ代表やバイエルン・ミュンヘンなどを率いた名将フリックを招聘したことが功を奏し、久しぶりに力強いバルセロナが復活した。
最大の目標である欧州チャンピオンズリーグは惜しくも準決勝で敗退したが、スペインリーグ、国王杯、スペイン・スーパーカップの3冠を達成。これほどの成功を収めることを今季開幕時に誰が想像しただろうか。
リーグ戦で総勢28人を起用したフリック監督の功績はいくつもあるが、現地で特に高く評価されているのは、多くの選手のパフォーマンスを最大限に引き出したことだ。
エスパニョール戦で優勝を引き寄せるスーパーゴールを記録した17歳のヤマル(33試合8得点13アシスト)に対し、スポルト紙は今季のスペインリーグの選手採点で唯一最高の10点をつけた。アス紙も優勝翌日の一面に「ラミンのリーグ」と見出し、ヤマルのシーズンだったと称賛した。その活躍ぶりにバロンドール受賞を推す声が高まっている。
シャビ監督時代は不遇の時を過ごしたラフィーニャ(34試合18得点9アシスト)は新監督の元、完全復活を果たした。レバンドフスキ(32試合25得点2アシスト)はけがの影響もあって後半戦はパフォーマンスを落としたが、36歳にもかかわらずバルセロナでのキャリアハイの得点数を記録した。ペドリ(35試合4得点5アシスト)は今季初めてけがのないシーズンを送り、チームトップの出場数&出場時間を記録。22歳とは思えない圧倒的な存在感で中盤を掌握した。
そして、フリック監督がカサドやジェラール・マルティン、エクトル・フォント、ベルナルといった下部組織出身の若手選手を抜擢したことは、クラブの将来に明るい兆しを感じさせている。
■ハイラインが武器
戦術面では、フリック監督が「我々の哲学の一部」と語る、VARでオフサイドが見逃されない点を存分に生かしたハイラインが大きな武器となった。公式戦のオフサイド誘発数は欧州5大リーグ(スペイン、イングランド、イタリア、ドイツ、フランス)最多の294回(リーグ戦171回)で、2位ベティスの152回、3位リバプールの140回を大きく上回っている。中でも、最初のクラシコでエムバペを8回もオフサイドにかけた戦術は衝撃的だった。
チームにはまた、成功を収める上で重要なフリック監督のルールや規律がいくつも存在した。スタメンは実力主義に基づき、調子のいい選手が先発メンバーに名を連ねた。練習や試合前のミーティングに遅刻した選手が試合に出してもらえないことは、クンデやイニャキ・ペーニャは特に身に染みて分かっているはずだ。また、審判に抗議しないこと、カードを極力もらわないこと、なども選手に徹底して教え込んでいる。
新指揮官の元、順風満帆に3冠を手にしたかのように見えるが、辛い時期を過ごすこともあった。若手とベテランを融合させたチームは、ガビ、アラウホ、デ・ヨングなどの主力をけがで欠く中でシーズンを開始した。そんな状況にもかかわらず、開幕からリーグ7連勝と幸先の良いスタートを切るが、中盤で大抜擢されたベルナルや守護神テア・シュテーゲンが重傷に見舞われた。
このように多数のけが人を抱えたことに加え、時間の経過とともにハイラインが攻略される事態が発生し、ケアレスミスも増加。これにより11月から12月にかけて調子を大きく崩し“冬の王者(前半戦の首位)”の座をアトレチコ・マドリードに譲ることになった。
しかし、フリック監督は後半戦に入っても自身の信じる戦術を貫いた。リードを許すことが何度もあったが、焦ることなくクライフの哲学のようなサッカーをやり続け、最後には逆転に成功した。その結果、後半戦のリーグ成績は17試合15勝2分けと、無敗を誇っている。
最終ラインの裏を取られるリスクを厭わずにラインを高く上げるバルセロナのサッカーは、見るものを大いに楽しませるエンターテインメント性があった。それを支えたのは高い得点力だ。
■ボール支配率トップ
レバンドフスキ、ラフィーニャ、ヤマルの“トリデンテ”だけでなく、フェラン・トーレスやダニ・オルモらもゴールを量産。リーグ戦で2位のRマドリード(74得点)を大きく上回る97ゴールを挙げている。シュート数もリーグトップの473本。同ランキング2位のRマドリード(440本)とそこまで変わらないが、20ゴール以上の得点差は決定力の違いを示している。
また、今季のバルセロナで特に際立ったのは、中盤のペドリやデ・ヨングを中心とした試合の主導権を握る能力が高かったことだろう。1試合平均のボール支配率は68・5%と断トツだ(2位Rマドリードは60・41%)。その華麗なパスワークはグアルディオラ監督時代の黄金期の“ティキ・タカ”を彷彿とさせる。
バルセロナのここまでのスペインリーグ成績は36試合27勝4分け5敗の勝ち点85。2位Rマドリードに勝ち点7差をつけ、2節を残して2季ぶりの優勝を成し遂げた。フリック監督は永遠のライバルからタイトルを奪還したエスパニョール戦後、「ラミンのリーグでもフリックのリーグでもない。バルサのリーグだ」と、個ではなく全員が力を合わせて勝ち取ったものであることを強調した。
素晴らしいサッカーを展開したバルセロナが近年の成績不振により、アメリカで今夏開催されるクラブワールドカップに参加できないのは残念だ。そのため、十分なパフォーマンスを発揮したチームが来季どのような進化を遂げるのか、新シーズン開幕を楽しみに待ちたいと思う。
【高橋智行】(日刊スポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)






