いよいよ東京オリンピックが開幕した。飛び込み競技も25日から始まり、シンクロ種目からのスタートとなった。

オリンピックでのシンクロ種目は、8カ国のみ出場することが出来る。そのため予選は行われず、一発決勝。出場できれば入賞が約束され、試合展開によっては上位に入れる可能性も高い。そういった理由からも、とても魅力的な種目だ。

シンクロは2人の同調性を競う種目。1人だけが成功しても高得点を取ることは出来ない。そこが難しさであり、面白さでもある。


男子シンクロ高飛び込み決勝 2本目の演技を行う伊藤(右)、村上組(撮影・鈴木みどり)
男子シンクロ高飛び込み決勝 2本目の演技を行う伊藤(右)、村上組(撮影・鈴木みどり)

26日の男子シンクロ高飛び込み決勝では、中国とイギリスが金メダル争いを繰り広げる展開に。試合中盤では、珍しく中国がわずかにミス。その代償は大きく、期待通り全ての演技を完璧に決めてきたイギリスが、1.23点という僅差で金メダルに輝いた。

最後の最後まで結果が分からず、とてもハラハラドキドキする面白い試合展開をみせてくれた。

日本からは、ベテランである村上和基(三重県スポーツ協会)と伊藤洸輝(JSS宝塚)ペアが出場。しかし、男子の世界の壁は厚く、8位という結果に終わってしまった。男子は、高難度の技を完璧に決めなければ戦えない。今回は、その事を痛感する結果となった。しかし、この世界を経験した彼らは、またひと回り成長し、今後さまざまな形で生かしてくれるに違いない。

村上とは、ジュニアの頃から日本代表として、共に戦ってきた戦友の1人。1度は競技を引退したものの、オリンピックという夢を諦められず、またこの世界へ戻ってきた。年齢や体力的にも、競技人生は残りわずか。そんな中で、何とかかなえた夢の舞台。彼とは、あまりにも長い年月を共に過ごしたため、試合を観戦していると、私の中に眠っていた選手時代の感覚をよみがえらせ、試合会場で応援しているようなスリルを味わわせてくれた。最後まで戦い抜いた彼らに、称賛を送りたい。


女子シンクロ高飛び込み決勝、1本目の演技を行う荒井(左)と板橋(撮影・河野匠)
女子シンクロ高飛び込み決勝、1本目の演技を行う荒井(左)と板橋(撮影・河野匠)

3日目の27日には女子シンクロ高飛び込み決勝が行われ、リオオリンピックを経験している板橋美波(JSS宝塚)とオリンピック初出場の荒井祭里(JSS宝塚)ペアが出場した。

同じ所属先で、競技を始めた頃から一緒に練習している2人。それでも筋力や跳躍力には個人差がある。シンクロではその差を埋めるために、さまざまな工夫をして今大会に臨んだ。試合では、あまり緊張を表に見せない板橋とは対照に、荒井は緊張を隠さない。試合前にエールを送ると、荒井からは「とても緊張している」とメッセージを返してくれた。それでも試合が始まると、そんな気持ちはなかったかのような、完璧な演技を何本もみせてくれた。全く失敗しない中国以外は、どの国がメダルを取ってもおかしくないほどの接戦だった。

最後の1本を残して日本は3位。もしかしたら歴史的瞬間が観られるかもしれない!と鼓動が高まった。最終ラウンドは、すべての国が同じ種目での戦いとなった。選手たちも、ここで結果が決まることは分かっていただろう。私も、とにかく祈るように応援した。

どの国も、小さなミス。これはいけるかも!?と期待はさらに膨らんだ。しかし、緊張と午後という時間帯から体が動きすぎてしまったのか、2人とも回転を止めきれず、大きく水しぶきが上がってしまった。

結果は6位。もちろん素晴らしい結果ではあるが、メダルを取れる可能性が十分にあっただけに、悔しさが残る。試合を終えた後の2人の表情に、私も涙が出た。この結果をどう受け止めるかはそれぞれだが、自らの力でいい方向へとつなげていってほしい。

30日からは、個人種目も始まる。注目が集まっている玉井陸斗(JSS宝塚)や、最もメダルに近いと期待されている、三上紗也可(日体大)など、この後も目が離せない選手たちが続々と登場する。

会場で観戦できない事は非常に残念ではあるが、画面越しからでも選手たちの緊張感やオリンピックに賭ける想いは十分に伝わってきた。選手にとっても、オリンピックならではの独特の雰囲気や、何万人もの大歓声を感じられない事に物足りなさもあるだろう。それでも、元選手という立場から言えば、本当に「開催してくれてありがとう」という言葉に尽きる。状況が状況なだけに、さまざまな意見や立場がある事は、選手や関係者、私たちのように応援している人も十分に理解している。

選手は、オリンピックに出られる「幸せ」と「感謝」を感じながらも、悔いなくこの大舞台を終えられるよう、全力を尽くしてほしい。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)