「らしいな」-。ノルディック複合の平昌五輪ノーマルヒルで2大会連続銀メダルを獲得した渡部暁斗(29=北野建設)の肋骨(ろっこつ)骨折を、同競技終了後の2月22日に日本代表の河野孝典コーチが明らかにした時に思ったことだ。故郷の長野・白馬で行われたW杯の前日(同2日)練習で転倒した時に骨折していたという。

 もちろん、本人は五輪期間中もそのことはまったく触れなかったし、素振りすら見せなかった。まさに、覚悟の戦い。五輪後、目指した金メダルに届かず「4年前と何も変わっていない」と自身を責め、決して言い訳をしなかったが、そこに渡部暁の「美学」があるのだろう。

 レースの内容がまさにそうだ。駆け引きが繰り広げられる後半距離。ほとんど集団を引っ張ってレースを作る。前に出ると当然、風を受け必要以上に力を使う。外国勢は先頭を何度か入れ替わったり、時にまったく前に出ず力を温存し、最後の直線勝負で前に出る。レース巧者とも言えるが、それを嫌う。

 2人だけで話す機会があった。「後ろで力を温存することは考えないの?」。答えは「ノー」だった。コーチにも「『この選手の後ろについて』って言われる。でも、はいって言って前に行きますよ」。どう勝つのか? 普段から「言動、行動が人を作る」と話している。正々堂々と戦うこと、自身が口にする「コンバイン道」を追求し続ける結果なんだと思う。

 オリンピアンと言われることも嫌う。「オリンピアンだからすごいとは思わない。日本人だから代表になれたのかもしれない。五輪選手だからすごいのではなく、どんなレースをしてどう勝ったか、だからすごいんだと言われたい」。

 注目しているのは、テニスの錦織圭と大リーグのイチローだ。国という概念を取っ払い1人の選手として世界と対峙(たいじ)し認められている。「肩書によって濁されない。そこに甘んじていないのがいい」と自身の理想と重ね合わせている。

 13日現在、W杯で個人総合首位に立つ。複合での日本人の個人総合王者は、3度制した荻原健司氏だけ。日本勢2人目の快挙となる。今日14日も含め、残りは5戦。肋骨(ろっこつ)は当然、痛いだろう。でも、やっぱりそんなことは関係なく、美学を貫いていくんだろうと思う。

 「どう勝つか?」は、「どう生きるか?」を突きつけられているようでもある。最近、渡部暁のレースを見ていると自然と目頭が熱くなってくる。「滑りを見て格好いいと言われたい」。生き様を見せ続け、頂点に立つ姿はきっと格好いいんだろうな。その瞬間を心待ちにしている。【松末守司】