
- 神戸製鋼を本年度限りで退団する右からWTB大橋由和、FB正面健司、CTB今村雄太(2019年1月24日撮影)
「イベントを運営する時、優秀な人材は駐車場を担当するといい」。イベント前には参加者を最初に出迎える役となり、終了後には帰り際に本音が聞こえてくる。そう学んだ大学時代の授業を自然と思い出したのが、1月24日の夜だった。
神戸市内のホテルで、ラグビーの日本選手権を18大会ぶりに制した神戸製鋼の「優勝報告会」が行われていた。「優秀な人材」かはさておき、他社の担当記者と会場外の通路で選手を待つことになった。
招待した側の選手はもちろん、最後まで会場に残る。まずはクロークで手荷物を受け取った招待者が、次々と上機嫌な様子で私たちの前を通り過ぎていった。取引先、ラグビー関係者、OB…。アルコールが入っていたこともあるだろうが、全員がいい笑顔だった。
「ええ会やったなあ」
「なんか久しぶりに○○の顔を見たわ」
「あっ、○○さん! 元気にしてんの?」
その場にいるだけで、報告会の空気感が分かる。記者同士でも「優勝するってこういうことなんですね」とうなずき合った。取材する側も優勝の重みや意味を、実感した瞬間だった。
この日の午後2時、本年度限りでの退団選手が発表されていた。話を聞きたかった3人は、最後の最後に会場から出てきた。
退団後は社業に専念するWTB大橋由和(34)の表情はすがすがしい。大阪・大工大高(現常翔学園)、同大を経て07年度に入社した男は「僕らの時代はなかなか勝てなかった。『どうにかせなアカン』と思い続けて、やってきた。最後(トップリーグの)順位決定トーナメントに入って、すごくいいチームになったと実感した」と切り出した。
「(日本選手権準決勝の)トヨタ戦で倒れても、みんなすぐに立ち上がっていた。口ではそう言っても、なかなかできない。『チームのため』っていうのが、客席から見ていても分かった。『もうこのチームは大丈夫や。さらに強くなる』って思いましたよね」
優勝の余韻で忘れそうになるが、最近5シーズンの神戸製鋼はチームとしての文化、土台を築くのに苦労していた。
◆14年度 ギャリー・ゴールド・ヘッドコーチ(HC、南アフリカ出身)
◆15年度 アリスター・クッツェーHC(南アフリカ出身)
◆16~17年度 ジム・マッケイHC(オーストラリア出身)
◆18年度 ウェイン・スミス総監督(ニュージーランド出身)
指揮官が変われば、選手起用、戦術の色も変わる。特にゴールド、クッツェー両HCは他チームに引き抜かれるような形での退団だった。「神戸のやりたいラグビーが分からん」という声を聞くこともあり、選手らの困惑は伝わってきた。
ニュージーランド代表「オールブラックス」のアシスタントコーチとしてW杯連覇に導いたスミス総監督は、今季の就任後「誰のためにプレーしているのか」を何度も選手たちに考えさせた。シーズン前には「レガシー活動」と題し、高炉を全員で訪問。練習中のミニゲームなどで用いるランダムに振り分けられたグループにも「加古川」など、製鉄所の名がつけられた。
グラウンド内外での意思統一により、退団選手の1人で元日本代表の今村雄太(34)は「メンバー外にも『メンバーのために』という、今までにない感じがあった。『このチームは勝つな』と思った。『成長しているな』と感じた」と優勝報告会後に明かした。
大橋は今季のリーグ戦出場ゼロ、今村は同2試合。優勝に大きく貢献した元ニュージーランド代表SOダン・カーター(36)はそういった仲間に対して「(過去に)いろいろなチームにいたけれど、我々のチームのバックアップは素晴らしかった。みんなで試合に出たいけれど、チームに入った以上、満足に出られない選手もいる。それでも(実戦的な練習などで試合メンバー以外が)高いスタンダードを保ち、試合に臨ませてくれた」と感謝する。
大橋、今村と同様にチームを離れる元日本代表FB正面健司(35)もリーグ戦出場なし。控えチームでのプレーが続いたが、腐ることない背中を多くの選手に示した。その正面はまず「代表2キャップしかない選手をずっと使い続けてくれた。(優勝で)みんなの喜ぶ顔が見られたのは良かった」と神戸製鋼への思いを言葉にし、同時に1選手としての本音も明かした。
「でも、僕は1試合も出られなくて複雑でした。優勝した瞬間、試合に出られていない若い選手も涙を流していた。う~ん…。『それだけチームのために尽くせた』という意味でもあるんでしょうが…」
報告会、お礼参り、ファンへの感謝イベントが続いた1月。会社、地域を元気にする「優勝」の価値は、チームに携わった全員に刻まれた。では、本当の常勝軍団となるために必要な要素とは何か。神戸を愛した正面だからこそ、若手の奮起を願い、最後の言葉を残した気がした。【松本航】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)
◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大とラグビー部に所属。13年10月に大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月から西日本の五輪競技を担当し、ラグビーやフィギュアスケートを中心に取材。

- 優勝を決めて喜ぶ神戸製鋼フィフティーン(2018年12月15日撮影)



