美しき「敗者の姿」だった。

東大阪市の花園ラグビー場で5月27日に行われたラグビー「リーグワン」の1部2部入れ替え戦・第2戦。三重ホンダヒート(2部2位)は24-22でグリーンロケッツ東葛(1部12位)に勝利。1勝1敗とするも、勝ち点差で昇格を逃した。

明暗を分けたのはわずかの差だった。

ノーサイドの笛が響くと、涙を流す選手あり、やれることはやったとの思いから笑顔を浮かべる選手あり。さまざまな感情が入り交じった。

試合後、スタジアム下の一室であった会見が終わろうとした時だった。上田泰平ヘッドコーチが「ひと言だけ」と切り出した。

「地域の方々、リーグの方々。全力を尽くして僕たちが輝ける場所を作っていただいた。本当に感謝しています。修正点や課題、(新リーグが)いろいろ言われることもあると思いますが、いいリーグを作れるようにチームとしても、これからも頑張っていきたいと思っています」

確かに、彼らは輝いていた。

第1戦(20日)は10-33で敗戦。逆転での1部昇格には3トライ差以上のボーナス点を獲得した上で、23点差以上をつける必要があった。

前半を19-3(トライ数3-0)で折り返す。

可能性はふくらんだ。

ただやはり、最後は第1戦の得点差が重くのしかかった。意地の勝利を挙げても、目標の昇格を手にすることはできなかった。

主将を務めたフランカーの古田凌は「楽しむ」という言葉を何度も口にした。

「選手に伝えたのは『チャレンジし続けよう、楽しみながらやろう』ということでした。1部のチームに勝てたことで、次につながった。さらにレベルアップして、またここに帰ってきます」

後半開始直後、自らシンビン(一時退場)となり、流れは東葛に傾いた。

それでもピッチに戻ると、最後まで体を張り続けた。

プレーヤー・オブ・ザ・マッチ(優秀選手)に選出された34歳のWTB生方信孝は試合後の会見で、今季限りでの引退を表明した。

大東大から10年に加入し、169センチの小さな体で13シーズンもチームひと筋で過ごした選手だった。

「長い間、楽しみながら頑張らせていただいた。昇格や降格、負けた試合の方が圧倒的に多かった。ただ、僕はヒート(三重)が大好き。何度も崖っぷちに立たされながら、そこからはい上がってきたのがこのチーム。いつか日本一をつかみ取る日が、必ず来ると思っています。ラグビー人生に、1つの後悔もありません」

望みは、後輩に託す。

昇格はできなくても、最後の試合で東葛に勝ったことが、何よりの自信になったのだから。

「安心してユニホームを脱ぐことができます」

涙はない。笑顔でそう語った。

花園の夜に堂々とした戦いを披露し、三重はシーズンを終えた。【益子浩一】

試合後に円陣を組む三重(左)と東葛のメンバー
試合後に円陣を組む三重(左)と東葛のメンバー
前半、ラインアウトで競り合う三重(左)と東葛の選手
前半、ラインアウトで競り合う三重(左)と東葛の選手