リオデジャネイロ五輪で個人総合2連覇、団体金メダルの内村航平(28=リンガーハット)が86・350点で前人未到の10連覇を達成した。5種目を終え首位と0・050点差の3位も、最終種目の鉄棒で逆転。実戦から8カ月遠ざかり、体調が万全ではない中、2位の田中佑典(コナミスポーツ)をわずか0・050点差で振り切り、苦しみながらプロ初戦を制した。

 「一言でいうと、すごくしんどかった」。個人総合で8年以上勝ち続けている内村にとって最も苦しい試合だった。5種目を終え、トップの白井、谷川を0・050点差で追う展開。残る鉄棒の演技前に思い出したのは、同じく最後に鉄棒で逆転したリオ五輪決勝だった。

 技の構成も同じ。最高の演技で勝つ算段だったが「疲労には勝てませんでした」。4種目目の跳馬の後、大胸筋の筋肉痛を感じ、一気に疲れが押し寄せていた。鉄棒は大きなミスなく着地も美しく決めたが「演技途中で笑いそうになるぐらい。今までで一番悪いぐらいの鉄棒でした」。演技が終わると床にへたり込んだ。

 リオ五輪後、腰、左肩、右足首のリハビリに専念し、本格的な練習を開始したのは昨年12月。3カ月で本来の調子に戻すのは難しかった。さらに今大会の前々週、前週と2度にわたり背中の肉離れも発症。痛みはもうないが、2日前の予選から今までにない疲れを感じていた。

 そんな状況にあった内村を目覚めさせたのがライバルの存在だった。「掲示板を見なくても分かる」僅差の戦い。「ヒリついた感じが、試合勘を戻してくれた」。背中を追ってくる白井、谷川ら若手の演技を気にしつつも演技の合間、指揮者のように手を動かしながら、静かにイメージトレーニングを繰り返した。白井は「航平さんは自分の世界に入っていて、近づきがたかった。すごく集中していた」と驚く。8カ月離れても試合の感覚を取り戻し、集中力を発揮できる。その経験値、強さが際だった。

 昨年12月にプロに転向。五輪2連覇をしても感じる体操のマイナー感を自らの手で払拭(ふっしょく)したかった。目指すのはテニスの錦織圭、競泳の北島康介ら実力も人気もあり「あがめられる存在」。だが、この日の出来は、理想の姿とは程遠かった。「自分の持ち味は美しさ。そこは崩さずにしっかり代表の座を射止めたい」。世界選手権(10月、モントリオール)代表がかかる1カ月後のNHK杯で美しい、本当の内村航平を見せる。【高場泉穂】