女子SPで8位の樋口新葉(17=東京・日本橋女学館高)がフリーで完璧な演技を披露し、145・01点の2位で逆転の銀メダルを獲得した。オリンピック(五輪)に行けなかった悔しさを大一番にぶつけた。五輪4位でSP3位の宮原知子(19=関大)は合計210・08点で銅メダル。07年金の安藤美姫、銀の浅田真央以来11季ぶりに日本女子がダブル表彰台に立ち、上位2人の順位合計が「13」以内となったため、さいたま市開催となる来年の出場枠は今回の2枠から最大の3枠を確保した。

 五輪メダリストでも地元のヒロイン、コストナーでもなく、この日一番の喝采を浴びたのは樋口だった。「絶対にできる」。そう口に出し、自分を奮い立たせて滑り始めた。演じたのは映画「007」のスパイになりきった「ワカバ・ボンド」。ジャンプを決める度に、拍手の量が増えていく。喜び、怒り、悲しみ…。変幻自在の表現で会場のボルテージを上げていった。

 終盤は気持ちが高ぶり、思わず「うわー」と叫んで見せ場のステップへ。そこからは「記憶がないです…」。歓声も拍手も聞こえなくなるほどの集中力で、そのままフィニッシュ。我に返ると、「やったー」と両手を天につきあげ、顔をくしゃくしゃにした。スケート人生で初めてのうれし涙だった。

 忘れられない悔しさをここにぶつけた。「今年の分は、全部出し切れました」。五輪最終選考会だった昨年12月の全日本選手権では力を出し切れず4位。右足首を痛め、激しい痛みがあったが、薬でおさえ、試合が終わるまで報道陣にはもちろん、コーチにさえ明かさなかった。五輪代表から落選したクリスマスの夜、思いを自身のツイッターでつづった。『今日のことがあったから頑張れるって思えるようにこれから倍返しの始まりだ』。人気ドラマ「半沢直樹」の決めぜりふを使って、次の北京五輪に向けたリベンジを誓った。

 樋口は「まだここで終わりじゃない」と前を向いた。さらなる成長へ止まっている暇はない。来季は大技トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)をプログラムに入れる予定で、さらに「4回転は、いずれ挑戦したい」とプランも描いた。「あと4年もあるので、『倍』をどこまで伸ばせるか。完璧な状態で毎年、毎試合滑っていきたい」。「倍返し」は始まったばかりだ。【高場泉穂】