日本テニス協会は17日の深夜、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、主催する男子ツアー、楽天ジャパンオープン(東京・有明)と、女子ツアーの花キューピッド・ジャパン女子オープン(広島)の中止を文書で発表した。「出場選手や関係者の安全確保を保証することは現時点では難しい」として、苦渋の決断だったという。

楽天ジャパンオープン(以下楽天OP)は72年に始まり、男子は73年から世界ツアー公式戦となった。アジアでは最も古いツアー公式戦で、4大大会とともに、国際テニス連盟が公認する世界でも数少ないナショナルオープンである。その歴史が途切れるのは、関係者によると「断腸の思い」だったという。

発表の日からさかのぼること3日。楽天OPに限れば、6月15日が、男子のATP(プロテニス選手協会)ツアーへ、大会の開催可否を回答する期限だった。関係者は「無観客、観客数削減、地方開催など、多くの選択肢を考え、試算を繰り返した」という。

ただ、10月の状況を、6月の時点で判断するのは、非常に困難だ。協会内部も、多くの意見で揺れたという。国内ではプロ野球、サッカーのJリーグも再開が決まり、新型コロナが収束の兆しを見せ始めた。しかし、テニス協会の2大会が抱える問題は、国内だけですまないやっかいさがある。

ツアー再編に伴い、5月予定だった全仏が9月27日から10月11日まで開催されることが確定した。楽天OPは、当初、10月5日開幕だったが、それを1週間ずらして、ATPから同月12日開幕を提示された。

楽天OPの翌週には、上海のマスターズ大会がある。つまり、どのぐらいの選手が参加するかは別にして、海外からパリ、東京、上海と人間が移動する。渡航制限の解除は先が見えず、プロ野球やJリーグと違い、6月に、10月の安全を保証するにはリスクが高いと判断せざるを得なかった。

全米も、海外から人間が移動するという状況は、基本、楽天OPと同じだ。それどころか、出場選手数では、シングルスだけで楽天OPが32人に対し、全米は男女で256人。規模も違い、安全確保の困難さも桁違いだ。しかし、全米は8月31日に開幕し、楽天OPは中止に追い込まれた。

文化や国民性の違いは大きい。もし、楽天で感染者が出れば、すぐに大会は中止に追い込まれる可能性は高い。また、協会が社会的責任を問われることも十分に考えられるだろう。会場はパブリックで、都民に貸し出される。感染が出れば、施設閉鎖や洗浄などで、大会後、都民への影響も出る。東京オリンピック・テニス競技の会場でもあり、開催に向けて感染者が出た施設というレッテルは避けたい。

対して、全米は、感染者が出ても、「他の選手とは距離を保てているため、大きな影響は出ない」と、米協会は言う。根拠はない見切り発車だが、それでもスポーツや経済を回すことにかじを切ったわけだ。米協会と日本協会の財政基盤も違う。

日本協会が公開している19年度の決算報告書がある。同年度の経常収益は約22億8600万円。その内、大会などの事業収益は約17億4300万円で、その大半が楽天OPからの収入だと言われる。それが中止になったのは、日本協会の財政も揺るがす痛手だ。

正解はないかもしれない。ただ、グローバル化を基盤にし、国際化を武器に発展してきたプロテニス界が、目に見えない敵の前に、混迷し、大きな代償を払ったことは確かである。【吉松忠弘】