<柔道:世界選手権>◇9日◇男子100キロ級◇東京・代々木第1体育館

 男子100キロ級で穴井隆将(26=天理大職)が初優勝し、日本男子の危機を救った。準決勝は延長戦の末に逆転勝ち、決勝も指導によるリードをしぶとくキープして初優勝した。昨年大会は穴井が3位に終わったことが響き、日本男子は五輪を通じた世界大会で史上初の金メダルゼロ。そのリベンジを成就させた。

 世界一を決める戦いに華麗さはなかった。だが穴井は不格好でも勝ちたかった。指導による1点のリードを死守。場外際で大内刈りを繰り出し、攻めの姿勢を見せることを忘れなかった。終了のブザーが鳴り、礼を終えると、篠原監督と抱き合った。「とにかく結果が欲しかった」。重い十字架を下ろすように話した。

 昨年は3位。結果的に日本男子は史上初めて世界大会で金メダルを逃した。敗れた穴井は決勝を見守った。「悔しい思いをかきたてないと。負けたことを思い出すためには、見ないとだめだと思った」。畳の外からの光景を目に焼き付け、再起を期した。

 だが不振は続いた。4月の全日本選手権から3大会連続でV逸。「もっと自信を持ってやっていた」。周囲からは耳の痛い言葉が入ってきた。「強い時のお前はこんなもんじゃない」。篠原監督からも叱責(しっせき)された。7月のベラルーシ合宿も絶不調だった。「代表を外してくれと言おうと思った」。当時を思い出すと、涙がこぼれるほど、苦しかった。

 自分と向き合って答えを探した。1、2月と国際大会連勝の好調時のビデオを見返した。「技出しのテンポが遅い。前へという感じがない」。一筋の明かりを頼りに、練習を続けた。

 8月14日には守るべきものも増えた。昨年結婚した夫人との間に長男が誕生した。「子供が生まれて強い父親になろうと決意した」。篠原監督から「子供のためではなく、自分のために戦え」と諭されたが、家族への思いを心の内に秘めて戦った。

 思いが強い分、この日の戦いは硬かった。準決勝では裏投げを食らった。ギリギリで腰をひねり、有効にとどめたが、敗北寸前だった。それでも「世界選手権だから自分の思い通りにはいかない」と冷静に、延長戦に持ち込み制した。

 篠原監督は「いいところはなかった」と辛口コメントの後に「この優勝で頑張ってきたかいがあった」とねぎらった。そんな恩師に穴井は「篠原先生に『こんなん、恩返しちゃうやろ』と言われそうだけど、1つ返せてよかった」と笑った。12年ロンドン五輪こそが大恩に報いるときと自覚している。【広重竜太郎】