スプリンターとしては細身の福島の強さの秘密は何か。北海道ハイテクAC中村宏之監督(65)は手抜きのできないまじめさ、そして、バッタのような瞬発力と分析する。「とにかくまじめな子で、周りに気を使う。だから大会では『せっかく足を運んでくれたファンにいいかげんなところは見せられない』と、いつでも全力投球する。それが最大の強みであり、弱みでもある」。

 6月の日本選手権(香川・丸亀)では、追い風0・9メートルの中での100メートルで11秒30という結果に落ち込み「200メートルは走れる(精神)状態ではなかった」(中村監督)という。その結果、翌日の200メートルはライバルの高橋萌木子に100分の1秒差(23秒57)で敗れた。中村監督は「いつも記録、記録というと切れてしまう。記録は後から付いてくるもの」と、愛弟子のメンタル面を気づかった。

 練習でも手抜きをしない福島を見守る中村監督の役割は、「やりすぎないようにさせること」という。そして、監督が福島に伝えたのは「自分の走りを追求しなさい」「駆けっこが大好きだった少女のころの気持ちを忘れず、ほほえんで走りなさい」ということ。その結果、7月、地元北海道の「南部忠平記念陸上」(札幌)で、向かい風0・1メートルの中、11秒28を記録し、笑顔が弾けた。

 肉体面の強さは「体重の割に筋肉量があること」。「跳躍力というか瞬間移動の早さはすごい。それが走る時の接地時間の短さにつながっている」という。野球を例に挙げ「打者には球をバットに乗せて大きく運ぶタイプと、鋭くはじき返すタイプがあるが、福島は間違いなく後者」と解説した。またバッタにも例え、「お尻は大きく足は細いのに瞬発力が鋭い。そんなバッタのような上への跳躍力を、アメンボのように横へ持ってくればよい」と言って笑った。

 前半60メートルのダッシュならば黒人選手にも引けは取らない。課題は終盤の走りだけに、中村監督は福島の体重を増やすことを重視。「もともと食が細いので、見ていないと出された食事を完食しない」という。

 師弟の目標は16年リオデジャネイロ五輪でのファイナリスト。その第1ステップとして11月のアジア大会(中国・広州)での短距離3冠での圧勝劇をもくろむ。「アジアで強いと思わせる。それが来年の世界陸上(韓国・大邱)、12年のロンドン五輪につながる」と青写真を描く。「ロンドンでは準決勝に進み、決勝までもう少しというところに持っていきたい。そしてリオで決勝だ」。名伯楽の中村監督が福島という原石を得て「世界」に挑む。