<大阪国際女子マラソン>◇30日◇大阪・長居陸上競技場発着(42・195キロ)

 最強のママさんランナー、赤羽有紀子(31=ホクレン)が、5度目のマラソン挑戦で悲願の初優勝を果たした。昨年は38キロ地点で無念の途中棄権となったが、今回は同じ38キロ地点でラストスパートをかけ、新星・伊藤舞(26=大塚製薬)とのマッチレースを制した。強風の影響でタイムは2時間26分29秒と伸びず、世界選手権(8月27日開幕、韓国・大邱)の選考基準となる2時間25分59秒以内はクリアできなかったが、日本陸連は赤羽の走りを高く評価。「大邱(テグ)行き切符」をほぼ手中に収めた。

 大阪に泣いた赤羽が、大阪で笑った。勝負の明暗は長居公園に向かう最終のあびこ筋で分かれた。34キロすぎから伊藤と一騎打ち。お互いがけん制し合い、前へ出る。直線に入ったところでロングスパートをかけた。くしくも、昨年左ひざの故障で棄権した38キロ地点。後方の伊藤をチラリと見ると、スピードを上げた。

 大阪地方は強風注意報が出ており、風速6メートルも記録した悪条件。それにも負けず、走った。口元をゆがませ、額にはうっすらと汗がにじむ。そして1年前の悪夢を吹き払うかのように笑顔で、夫の周平コーチ(31)が待つゴールに飛び込んだ。タイムは2時間26分29秒。大邱切符に直結する「25分59秒以内」はクリアできなかったが、安定した走りと終盤の勝負強さを見せつけ、初優勝を飾った。

 赤羽

 向かい風がきつくて、スパートのタイミングが難しかった。舞ちゃんには余裕があった。一気にスパートしないと離せない。なかなか離れないから、初めて後ろを振り返った。

 昨年の大阪で涙し、この1年は練習メニューも変えた。負荷をかけたスピード練習後には、必ず「LSD(ロング・スロー・ディスタンス)」という調整メニューを取り入れた。1キロを6分30秒以上のゆっくりしたペースで、120分といった長い時間を走る。「故障しないでスタートラインに立つため」(周平コーチ)だった。大阪入りするまで、23泊の奄美合宿も敢行。風雨にさらされ自然と闘うマラソンの神髄にも触れ、今回の予行演習とした。

 愛娘の優苗ちゃん(4)は、17キロと30キロ地点から2度声援を送った。赤羽は「笑顔を見て体が楽になった。娘はいつも力をくれる」。休む間もなく4月にはロンドンを走り、8月の世界選手権でメダルを狙う。その視線の先にあるのは、来年のロンドン五輪だ。「ケガしないでもう一段上の練習がしたい」。妥協なき母はどこまでも強く、まぶしかった。【佐藤隆志】