08年北京五輪男子マラソンで金メダルを獲得したサムエル・ワンジルさんが15日、母国ケニアの自宅バルコニーから転落し、死亡した。同国の警察当局が16日、発表した。24歳だった。

 ワンジルさんの仙台育英高陸上部時代の恩師で、現在、ミズノトラッククラブの専属コーチを務める渡辺高夫氏(63)は都内で会見を開き「残念、無念としか言いようがない」と話した。この日、福島の北会津で合宿中に、ワンジルさんの後輩からの電話で悲報を聞いた。「うそだろう。ジョーク言っているんだろう」というのが、最初の実感だったという。

 同校時代は「誰よりも早く来て、最後まで練習していた。忠実でまじめ。納豆もお風呂も好きで、日本人以上に日本人だった」。だが北京五輪で金メダルを取ってから、多くのトラブルに巻き込まれた。渡辺氏も「もう1人のワンジルがいたのかな。スポーツで悩んでならまだ本望だが、それ以外のことのようだし」と戸惑いを隠せなかった。

 最後に話したのは3月下旬の電話。離婚訴訟のこともあり「人間社会は我慢、我慢」と忠告したという。「生きていれば、70~80%で五輪2連覇はできた。世界最高も出せたと思う」と悔やんでいた。